デザインや印刷の世界に携わる方にとって、「dic色見本」という言葉は非常に馴染み深いものでしょう。しかし、その正確な役割や使い方、なぜそれが必要なのかといった点については、改めて確認しておきたい情報がたくさんあります。
この記事では、「dic色見本」に関する様々な疑問に、具体的に分かりやすくお答えしていきます。
DIC色見本とは何ですか?
DIC色見本とは、日本のインキメーカーであるDIC株式会社が発行している、特色(プロセスカラーであるCMYKの掛け合わせではなく、特定の調合で作られたインク)の標準色見本帳です。冊子やファンデッキ(扇状に広がるタイプ)の形態をしており、実際に印刷されたインクの色が多数収録されています。
簡単に言えば、「この色が欲しい」と思ったときに、画面上の色ではなく、紙に印刷された「本物のインクの色」を確認・指定するためのツールです。
DIC色見本の構成要素
一般的なDIC色見本帳は、以下のような要素で構成されています。
- カラーチップ(色のサンプル): 実際に印刷されたインクの色見本。通常、特定の用紙に印刷されています。
- 色番号(カラーナンバー): 各色に割り当てられた固有の番号。例えば、「DIC 1」や「DIC 201」など。
- 色名(カラーネーム): 色のイメージを表す名称が付いている場合もあります。
- 印刷データ(配合情報など): プロセスカラーでの再現値や、インクの配合比率が記載されている場合があります。
なぜDIC色見本が必要なのですか?
デジタルデバイスの画面上では、数え切れないほどの色を表現できます。しかし、印刷においては、インクの種類や紙の種類、印刷方法によって色の見え方が大きく変わってきます。
色の正確な伝達と共通認識
デザイナーが「この青色を使いたい」と思っても、画面上のRGBやHex値だけでは、それが印刷でどのように表現されるか、また、他の人が同じ色を正確に認識できるかは保証されません。「少し緑がかった青」「鮮やかな青」といった言葉での伝達も、主観が入るため曖昧になりがちです。
「DIC 256を指定してください」と言うだけで、デザイン会社、クライアント、印刷会社の間で、寸分の狂いもなく同じ「青色」を共通認識できる。これがDIC色見本の最大のメリットです。
特定の番号で色を指定することで、関係者全員が物理的な見本帳を見て同じ色を確認できるため、色の誤解やトラブルを防ぐことができます。
印刷における再現性の確保
特色であるDICカラーは、特定の顔料を調合して作られています。これにより、CMYKの掛け合わせでは表現が難しい鮮やかな色や、くすみのないクリアな色などを安定して再現できます。
DIC色見本帳は、その特色インクを標準的な条件で印刷したものです。この見本帳を基準に色を選び、印刷会社も同じ見本帳に合わせてインクを調合・印刷することで、意図した通りの色味を安定して得ることができるのです。
画面表示と印刷物の色の違いを埋める
ご存知の通り、パソコンやスマートフォンの画面で見る色(光の色)と、印刷物として紙の上でインクが反射する色(インクの色)は、仕組みが全く異なります。画面の色は、たとえキャリブレーションしていても、見る環境やデバイスによって見え方が異なりますし、印刷でそのまま再現できるわけではありません。
DIC色見本は、実際にインクが紙に乗った状態の色を示しているため、画面上のイメージだけでなく、最終的に出来上がる印刷物の「実際の色」を予測し、確認するために不可欠なツールとなります。
DIC色見本はどのように使われますか?
DIC色見本の使い方は、主に以下のステップで行われます。
- 色の選定: デザインのイメージやクライアントの要望に合わせて、DIC色見本帳をめくりながら、目的の色に近いものを探します。
- 色の確認: 候補となる色が見つかったら、そのカラーチップを、実際に使用する紙の種類や、印刷物が置かれる環境の光の下で確認します。見本帳の種類によっては、同じ色が複数の紙種に印刷されているので、仕上がりに近いものを選びます。
- 色番号の指定: 使用する色が決定したら、そのカラーチップに記載されているDIC色番号を控えます。
- 関係者への伝達: デザインデータを作成する際や、印刷会社に入稿する際に、このDIC色番号を正確に伝えます。データ上でスポットカラーとして指定する場合も、番号を明記します。
- 印刷現場での照合: 印刷会社では、指定されたDIC色番号に基づいてインクを調合し、印刷を行います。印刷の際に、オペレーターは見本帳と印刷中の刷り出しを比較し、指定された色になっているかを確認しながら調整を行います。
デザインツールでの活用
Adobe IllustratorやPhotoshopといったデザインソフトウェアには、DICカラーライブラリが搭載されています。これにより、画面上でDIC色を指定し、データにその情報を埋め込むことができます。
ただし、画面上の色はあくまで「DICカラーのイメージ」であり、実際の見え方とは異なります。必ず物理的なDIC色見本帳で確認しながら作業を進めることが重要です。
DIC色見本にはどのような種類がありますか?
DIC色見本には、収録されている色のシリーズや、印刷されている紙種によっていくつかの種類があります。
紙種による違い
インクの色は、印刷される紙の表面状態や吸湿性によって見え方が大きく変わります。そのため、主要なDIC色見本帳は、異なる紙種で提供されています。
- コート紙(Coated Paper)用: 表面に光沢やツヤがあり、インクが沈みにくい加工がされた紙用。インクの色が鮮やかに出やすいのが特徴です。
- 上質紙(Uncoated Paper)用: 光沢がなく、インクが紙に吸収されやすい非加工紙用。インクの色がやや沈んで見えたり、マットな質感になったりするのが特徴です。
デザインする印刷物がコート紙に刷られるのか、上質紙に刷られるのかによって、参照すべき見本帳が変わります。両方の紙種で確認することが、より正確な仕上がりを得るために推奨されます。
シリーズによる違い
DIC色見本は、登場した時期や収録色の種類によって、いくつかの主要なシリーズがあります。
- DICカラーガイド(Part 1, Part 2, Part 3など): 長年使われている基本的な特色のシリーズ。Part 1は日本の伝統色、Part 2はフランスの色、Part 3は中国の色がベースになっていると言われることもありますが、現在は国際的なデザインに広く使われています。
- DICカラーガイド日本の伝統色: 日本の古典籍や伝統的な色にインスパイアされたシリーズ。落ち着いた深みのある色が特徴です。
- DICカラーガイドフランスの伝統色: フランスの伝統や文化をイメージしたシリーズ。洗練された色合いが多いのが特徴です。
- DICカラーガイド中国の伝統色: 中国の伝統的な色をベースにしたシリーズ。豊かな色彩が特徴です。
どのシリーズを選ぶかは、デザインのテイストや目的に応じて検討します。通常、Part 1, 2, 3が最も汎用的に使用されます。
その他の種類
上記以外にも、蛍光色やメタリックカラーなどを収録した特殊な見本帳も存在します。
DIC色見本はどこで購入できますか?
DIC色見本は、比較的手に入りやすいツールです。
- オンラインストア: Amazonや楽天などの大手ECサイト、デザイン用品を扱うオンラインストア、印刷関連資材のオンラインショップなどで広く販売されています。
- 画材店・デザイン用品店: ロフトや東急ハンズなどの大型雑貨店の一部、または専門的な画材店やデザイン用品を扱う店舗でも取り扱いがあります。
- 印刷関連資材店: 印刷会社向けの資材を扱う専門店でも購入できます。
購入する際は、必要なシリーズ(Part 1, 2, 3など)と紙種(コート紙用、上質紙用)を間違えないように注意しましょう。
DIC色見本はどれくらいの価格帯ですか?
DIC色見本の価格は、シリーズや収録されている色の数、紙種のセットかどうかによって異なります。
一般的なDICカラーガイド(Part 1, 2, 3など)の1冊あたり、おおよそ5,000円〜10,000円程度が目安となります。コート紙用と上質紙用のセットや、複数のシリーズがセットになった商品は、価格が高くなります。
安価なツールではありませんが、色の正確な伝達と印刷トラブルの回避を考慮すると、プロのデザイナーや印刷会社にとっては必須の投資と言えます。
DIC色見本を効果的に使うためのヒント
DIC色見本の性能を最大限に引き出し、正確な色指定を行うためには、いくつかの点に注意が必要です。
- 正確な照明環境下での確認: 色の見え方は、照明の種類(自然光、蛍光灯、白熱灯など)によって大きく変わります。 ideallyは、色の評価に適した標準光源(D50光源など)の下で確認するのがベストですが、難しければ、太陽光の当たる場所(直射日光は避ける)など、色温度が安定した環境で確認しましょう。異なる環境で見比べると、印象が変わることを理解しておくことも重要です。
- 見本帳の適切な保管: DIC色見本帳は、紫外線や湿気、汚れなどによって色が変化(退色や黄変)する可能性があります。直射日光の当たる場所や、高温多湿の場所を避けて保管しましょう。使用しない時は箱やケースにしまい、埃から守ることも大切です。
- 定期的な買い替えの検討: 長年使用していると、見本帳自体の色が劣化してきます。正確な色指定のためには、数年おきに新しい見本帳に買い替えることが推奨されます。
- 使用する紙との関係を考慮: 見本帳に印刷されている紙と、実際に印刷する紙は、完全に同じではありません。特に上質紙は種類が多く、紙の白さや質感によって色の見え方がさらに変わる可能性があります。可能であれば、実際に使う紙に試し刷りをして確認するのが最も確実です。
まとめ
DIC色見本は、単なる色のカタログではなく、デザインの意図を正確に印刷物として再現するために不可欠なコミュニケーションツールです。
その「何であるか」「なぜ重要なのか」「どのように使うのか」「どんな種類があり」「どこで、いくらで手に入るのか」といった点を理解し、正しく活用することで、色のトラブルを避け、高品質な印刷物制作に繋げることができます。
画面上の色だけでは決して得られない安心感と正確さを、DIC色見本は提供してくれます。デザインや印刷に関わる方は、ぜひ手元に置いて活用してみてください。