風力発電機とは? 基本的な仕組み
風力発電機は、風が持つ運動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置です。
巨大なプロペラのようなブレードが風を受けて回転し、その回転運動を利用して発電を行います。
主要な構成要素
一般的な風力発電機は、以下の主要な部品で構成されています。
- ブレード (Blades): 風を受ける翼。通常2枚または3枚で、最新の大型機では全長が100メートルを超えるものもあります。
- ハブ (Hub): ブレードが取り付けられる中心部分。風の向きに応じてブレードの角度(ピッチ角)を調整する機構を持つものが多いです。
- ナセル (Nacelle): タワーの頂上にある箱型の部分。内部に重要な機器が格納されています。
- ギアボックス (Gearbox): ブレードの比較的遅い回転数を、発電機が要求する速い回転数に変換する増速機。ただし、ギアレス方式の発電機も存在します。
- 発電機 (Generator): ギアボックス(または直接)の回転運動を電気エネルギーに変換する心臓部。
- タワー (Tower): ナセルとブレードを支える柱。地上からの高さを稼ぐことで、より強い風を受けやすくします。鋼鉄製が一般的ですが、コンクリート製やハイブリッド型もあります。
- 制御システム (Control System): 風向や風速に応じてタワーの向き(ヨー制御)やブレードの角度(ピッチ制御)を調整したり、運転状況を監視したりするシステム。
- 基礎 (Foundation): タワー全体を支え、風圧に耐えるための土台。地上設置型、着床式洋上型、浮体式洋上型で構造が異なります。
エネルギー変換のステップ
風力発電機が風から電気を作るプロセスは、おおよそ以下のようになります。
- 風がブレードに当たり、揚力と抗力が発生してブレードが回転します。
- ブレードの回転がハブを介してメインシャフトに伝わります。
- メインシャフトの回転は、ギアボックスを通って増速されます(ギアレスの場合は直接)。
- 増速された回転エネルギーが発電機に伝わり、電気が発生します。
- 発生した電気は、変圧器で適切な電圧に変換され、送電線を通じて電力系統(グリッド)に送られます。
風力発電機の種類
風力発電機は、主に回転軸の方向によって大きく2種類に分けられます。
水平軸風力発電機 (Horizontal Axis Wind Turbine – HAWT)
現在、世界の大型風力発電機の主流となっているタイプです。ブレードの回転軸が地面に対して水平です。
プロペラ型とも呼ばれ、最も効率が良いとされています。通常、風上側にブレードが配置されます(アップウィンド型)が、古い形式では風下側(ダウンウィンド型)もありました。
大型化が容易で、多くの風況条件に適応できるため、陸上および洋上のウィンドファームで広く採用されています。
垂直軸風力発電機 (Vertical Axis Wind Turbine – VAWT)
ブレードの回転軸が地面に対して垂直なタイプです。
主に以下の2種類があります。
- ダリウス型 (Darrieus type): 湾曲したブレードが特徴。ナセルなどの重い機器を地上に置けるためメンテナンスがしやすいという利点がありますが、始動トルクが小さく、強風時の安定性に課題があります。
- サボニウス型 (Savonius type): 風車のようなS字断面のブレードが特徴。回転数が遅いですが、弱い風でも回りやすく、風向を選ばないという利点があります。小型用途が多いです。
垂直軸型は水平軸型に比べてまだ普及が進んでいませんが、騒音が比較的少ない、風向変化に強いなどの利点から、特定の場所や用途での利用が進められています。
どこに設置されるのか?
風力発電機の設置場所は、良好な風況が得られること、電力系統への接続が可能であること、そして地理的・環境的な制約が少ないことが重要な条件となります。
陸上風力発電 (Onshore Wind)
丘陵地、海岸線、平原など、比較的風が強く安定して吹く場所に建設されます。
世界の風力発電容量の大部分を占めています。送電網への接続が比較的容易ですが、景観への影響、騒音、土地利用に関する課題が議論されることがあります。
洋上風力発電 (Offshore Wind)
陸上よりも風が強く安定しており、大型の風力発電機を設置できるため、近年注目度が高まっています。
主に以下の2つのタイプがあります。
- 着床式 (Fixed-bottom): 海底に直接基礎を設置する方式。水深が比較的浅い場所(数十メートル程度まで)に適しています。モノパイル、ジャケット、重力式など様々な基礎構造があります。
- 浮体式 (Floating): 海底に基礎を固定せず、浮体構造物の上に風力発電機を設置し、係留索で海底に繋ぐ方式。水深が深い場所でも設置が可能で、より多くの海域を利用できる可能性を秘めています。セミサブマージブル、TLP、スパーなど様々な浮体構造が開発・実用化されています。
洋上は陸上よりも大規模なプロジェクトが多く、発電効率も高い傾向がありますが、建設コストやメンテナンスコストが高く、海洋環境への影響や漁業との調整なども考慮が必要です。
どれくらいの風が必要? 発電停止はなぜ?
風力発電機は常に同じように発電しているわけではありません。風速によって運転状況が変わります。
風速と発電出力
- カットイン風速 (Cut-in wind speed): 発電を開始するのに必要な最低限の風速です。通常、秒速3~5メートル程度です。これより風が弱いと、ブレードは回っていても発電できるほどの力がないため停止しています。
- 定格風速 (Rated wind speed): 最大の発電出力(定格出力)が得られる風速です。通常、秒速10~15メートル程度です。
- カットアウト風速 (Cut-out wind speed): 風力発電機を保護するために運転を停止する風速です。通常、秒速25メートル程度です。これより風が強いと、ブレードやタワーに過大な力がかかり破損する恐れがあるため、ブレードの向きを調整したり、ブレーキをかけたりして回転を止めます。
つまり、風が弱すぎても強すぎても発電は行われません。最も効率的に発電できるのは、カットイン風速から定格風速の間、特に定格風速に近いときです。
風力発電機が停止する主な理由
上記のように風速がカットイン以下またはカットアウト以上の場合に運転を停止しますが、それ以外にも停止する理由があります。
- 故障: 部品の故障(ギアボックス、発電機、センサーなど)が発生した場合、安全のために停止します。
- 定期保守・点検: 計画されたメンテナンスのために運転を停止します。ブレードやナセル内部の点検、油交換などが行われます。
- 電力系統の都合: 電力系統側の需要と供給のバランス調整や、送電線のメンテナンスなどの理由で、電力会社からの指示により運転を停止することがあります。
- 環境対策: 鳥類の渡りの時期など、特定の環境保護の目的で意図的に停止することもあります。
どれくらいの電力を作る?
風力発電機1基がどれくらいの電力を作るかは、その発電機の「定格出力」と、設置場所の年間を通じた「風況」、そして「稼働率」によって大きく変動します。
定格出力 (Rated Capacity)
これは、その風力発電機が最も効率よく発電できる風速(定格風速)で運転した時に出せる最大の電力です。メガワット(MW)単位で示されます。
初期の風力発電機は数百キロワット(kW)程度でしたが、現在陸上で主流となっているのは2~5MW級、洋上では8~15MW級、さらには20MWを超えるような巨大な発電機も開発・設置されています。
例えば、5MW級の風力発電機は、定格風速時には5,000キロワットの電気を時間あたりに作り出す能力があるということです。
年間発電量
定格出力はあくまで「最大能力」であり、実際の年間発電量は風況によって異なります。
年間を通じての平均的な発電量を表す指標として「設備利用率(Capacity Factor)」があります。これは、ある期間(通常1年間)の実際の発電量を、その期間ずっと定格出力で運転し続けた場合の理論上の最大発電量で割ったものです。
陸上風力発電の設備利用率は一般的に20~35%程度、洋上風力発電では30~50%程度(場所によってはそれ以上)となることが多いです。
例えば、定格出力5MWの陸上風力発電機が設備利用率30%で稼働した場合、年間発電量はおよそ
5,000 kW × 8,760 時間/年 × 0.30 ≒ 13,140,000 kWh/年 = 13,140 MWh/年
となります。(8760時間は1年間の時間数です)
これは、一般的な家庭(年間使用量3,000 kWh程度とする)約4,380世帯分の年間電力使用量に相当する量です。ただし、これはあくまで概算であり、家庭の電力使用量や地域の電力事情によって異なります。
風力発電機1基あたりの発電能力は年々向上しており、特に大型化が進む洋上風力では、1基で数千世帯から1万世帯を超える電力を賄うポテンシャルを持っています。
風力発電機の輸送と設置
巨大な風力発電機を製造工場から設置場所まで運び、組み立てる作業は非常に大規模で複雑なロジスティクスと高度な技術を必要とします。
輸送
ブレード、ナセル、タワーなどの巨大な部品は、そのままの大きさでは運べないため、分割して製造・輸送されます。
陸上輸送の場合は、ブレードやタワーの各セクションを運ぶために、車体が長く特殊なステアリング機構を持つ大型トレーラーが使用されます。カーブを曲がる際には、ブレードの先端を空中に持ち上げる特殊なトレーラーもあります。
洋上輸送の場合は、港湾設備が整った場所で部品を船に積み込み、設置海域まで運びます。ブレードは専用の固定具で、ナセルやハブは船上に固定されます。タワーは複数のセクションに分かれます。
設置
設置工事は、まず強固な基礎を建設することから始まります。
陸上では、大量のコンクリートと鉄筋を用いた基礎が造られます。
洋上着床式では、海底にモノパイルやジャケット構造などを打ち込んだり、海底に直接構造物を沈めたりします。
浮体式では、陸上で浮体構造物とタワーの一部を組み立てた後、曳航して設置海域まで運び、係留索で固定します。
タワー、ナセル、ハブ、ブレードの組み立てには、数百トンから1000トン級の吊り上げ能力を持つ超大型クレーンが使用されます。
陸上では移動式の大型クレーンが、洋上では特殊なクレーン船(SEP船:Self-Elevating Platform船など)が用いられます。
まずタワーの各セクションを積み上げてボルトで固定し、その頂上にナセルを吊り上げて設置します。その後、地上や船上で組み立てたブレードを、1枚ずつ、またはハブに取り付けた状態で吊り上げてハブに固定していきます。
高さ数十メートル、時には100メートルを超える高所での作業となり、風が強い日や悪天候の日は作業ができません。
運転中の音やその他の影響
風力発電機の運転は、発電効率だけでなく、周辺環境への様々な影響も考慮して行われます。
騒音
風力発電機の運転音は、主に以下の2つの原因があります。
- 空力音 (Aerodynamic noise): ブレードが風を切る際に発生する音。特にブレードの先端部分で大きくなります。
- 機械音 (Mechanical noise): ナセル内のギアボックスや発電機などの機器から発生する音。
最近の大型風力発電機は設計改良により機械音は低減傾向にありますが、空力音はブレードが大きくなるにつれて大きくなる傾向があります。ただし、最新のブレード設計やナセル構造により、騒音レベルは年々改善されています。
風力発電機の騒音レベルは、距離によって大きく減衰します。一般的に、風力発電機から数百メートル離れた場所での騒音レベルは、図書館の内部や静かな住宅地と同程度(40~50デシベル程度)以下になるように設計・規制されています。設置場所の選定においては、住居からの距離などが考慮され、環境影響評価が行われます。
風車直下や極めて近距離では音が大きく聞こえますが、数十メートル~数百メートル離れると音は急速に小さくなります。距離による減衰が大きいのが特徴です。
鳥類・コウモリへの影響
風力発電機の回転するブレードに鳥やコウモリが衝突する事故が発生することがあります。これは、特に渡り鳥のルート上や鳥類の生息地の近くに設置された場合に懸念される問題です。
この影響を低減するために、以下の対策が取られています。
- 設置場所の慎重な選定(渡りルートや重要生息地を避ける)
- 鳥類の活動が活発な時間帯(夜間や明け方)や時期(渡り時期)に、風車の運転を一時的に停止する
- 鳥類やコウモリを検知して風車を停止させるシステム
- ブレードに色をつける(衝突防止効果が期待される色など)
景観への影響
大型の風力発電機は、設置場所によっては周囲の景観に大きな影響を与えることがあります。特に自然景観が重要な場所や、視覚的な開放性が求められる場所では、景観との調和が課題となります。
この影響を考慮して、設置場所の選定や、タワーの高さ、塗装の色などが検討されます。洋上風力でも、沿岸部からの見え方などが議論されることがあります。
風力発電機のメンテナンス
風力発電機が長期にわたり安定して発電を行うためには、適切な保守・点検が不可欠です。通常、設計寿命は20年程度とされていますが、メンテナンスによってそれ以上に稼働する場合もあります。
定期点検
年に数回、あるいは月に数回といった頻度で、目視点検やセンサーによるデータ監視が行われます。
ナセル内部の機器(ギアボックス、発電機、制御システムなど)の状態チェック、タワーやブレードの外観点検(亀裂や損傷がないか)、ボルトの緩み確認、潤滑油の交換などが行われます。
ブレードの点検は、地上から望遠鏡を使ったり、ロープアクセス技術者が直接ブレードに降りて行ったり、ドローンを使ったりと様々な方法で行われます。
トラブル対応と部品交換
センサーが異常を検知したり、運転データに異常が見られたりした場合は、詳細な点検が行われ、必要に応じて修理や部品交換が行われます。
ギアボックスや発電機といった主要部品の交換は大規模な作業となり、再び大型クレーンが必要となる場合があります。特に洋上では、天候や波浪の影響を受けやすく、メンテナンス作業がより困難でコストも高くなる傾向があります。
これらのメンテナンス作業は、風力発電機の稼働率を維持し、安全な運転を続けるために非常に重要です。遠隔監視システムによって24時間365日、発電機の状態がチェックされており、異常の早期発見に役立てられています。