雇用保険は、労働者の生活及び雇用の安定、就職の促進のために設けられた国の社会保険制度です。この「雇用保険に加入する」ということは、企業で働く上で非常に重要であり、法的に定められた義務でもあります。ここでは、雇用保険への加入について、皆さんが抱くであろう具体的な疑問点に焦点を当て、詳しく解説します。
雇用保険加入とは?(何について?)
「雇用保険に加入する」とは、労働者が雇用保険制度の被保険者となることを指します。これにより、失業した場合や、育児・介護などで休業した場合などに、雇用保険から各種の給付金を受け取ることができるようになります。
誰が加入する必要がある?(加入義務者)
原則として、労働者を一人でも雇用する事業主には、その事業所で働く労働者を雇用保険の被保険者とする義務があります。ただし、すべての労働者が被保険者となるわけではなく、一定の要件を満たす必要があります。
- 適用事業所であること:ほとんどの事業所が該当します。
- 労働者の要件:以下の二つの要件を両方満たす労働者です。
- 所定労働時間が週20時間以上であること:契約上の労働時間が週20時間未満の場合は原則として対象外です。
- 31日以上の雇用見込みがあること:雇用契約書などで、31日以上引き続き雇用されることが見込まれる場合に対象となります。
正社員はもちろん、上記の要件を満たすパートタイムやアルバイト、契約社員、派遣社員なども雇用保険の加入対象となります。
加入できない人は?
上記の要件を満たさない労働者のほか、以下のような場合は原則として雇用保険の被保険者とはなりません。
- 日雇い労働者(一定の要件を満たす場合は特例で被保険者となることがあります)
- 65歳以降に新たに雇用された方(ただし、2017年1月1日以降は65歳以上で新たに雇用された方も高年齢被保険者として加入対象となりました)
- 短時間就労者で、上記の「週20時間以上」または「31日以上の雇用見込み」の要件を満たさない方
- 法人の代表取締役や監査役など、労働者としての性格を持たない役員
- 家事使用人
- 学生(ただし、例外として適用される場合があります)
なぜ雇用保険に加入する必要がある?(加入のメリットと未加入のリスク)
雇用保険への加入は、単なる形式的な手続きではなく、働く人々にとって万が一の事態に備えるためのセーフティネットであり、以下のような多くのメリットがあります。
主なメリット(受けられる給付)
加入することで、主に以下のような給付を受けられる可能性があります。
求職者給付(いわゆる失業保険)
離職した方が、働く意思と能力があるにもかかわらず、仕事が見つからない場合に受けられる給付です。生活の不安を軽減し、安心して再就職活動を行うための重要な支えとなります。受給額や期間は、離職前の賃金や雇用保険の加入期間などによって異なります。
育児休業給付金
雇用保険の被保険者が、育児のために休業した場合に受けられる給付金です。育児休業中の所得を補償し、育児と仕事の両立を支援する制度です。
介護休業給付金
家族の介護のために休業した場合に受けられる給付金です。介護離職を防ぎ、仕事と介護の両立を支援します。
教育訓練給付金
雇用の安定と再就職の促進を図るため、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講した場合に、受講費用の一部が支給される制度です。専門的な知識やスキルを習得し、キャリアアップや円滑な再就職を目指す方を支援します。
これらの給付は、雇用保険に加入し、かつ所定の受給要件を満たしている場合にのみ受け取ることができます。
加入しなかったらどうなる?(未加入のリスク)
本来加入しなければならない労働者を雇用保険に加入させていない事業主は、法律違反となります。これは事業主の義務であり、怠った場合には遡って加入手続きを行う指導を受けたり、場合によっては罰則が科されたりする可能性があります。
また、労働者側にとっても、未加入のままでいることは大きなリスクです。もし会社を辞めることになったり、育児や介護で休業することになったりしても、雇用保険から一切の給付を受けられません。これは、もしもの時の生活設計やキャリア形成において、非常に不利な状況を招くことになります。事業主が手続きを怠っている場合は、労働者から事業主に対して手続きを依頼するか、ハローワークに相談することが可能です。
雇用保険料はいくら?どうやって計算される?(どのくらいの金額?)
雇用保険の保険料は、労働者と事業主がそれぞれ負担します。
保険料率と計算方法
雇用保険料は、「賃金総額」に「雇用保険料率」をかけて計算されます。
- 賃金総額:原則として、税金や社会保険料などが控除される前の毎月の給与や賞与などの合計額です。
- 雇用保険料率:国の経済情勢や雇用情勢によって変動します。また、事業の種類(一般の事業、農林水産業、建設事業など)によって異なる料率が適用される場合があります。最新の料率は、厚生労働省のウェブサイトなどで確認できます。
計算された保険料は、事業主負担分と労働者負担分に分けられます。例えば、労働者負担分の保険料は、毎月の給与から天引きされる形で徴収されます。事業主は、天引きした労働者負担分と自身の負担分を合わせて、国に納付します。
ご自身の毎月の給与からいくら雇用保険料が引かれているかは、給与明細の控除項目で確認できます。
雇用保険加入の手続きはどうやる?確認方法は?(どうやって加入する?手続きは?)
雇用保険の加入手続きは、基本的に事業主が行います。
事業主が行う手続き
- 対象者の確認:前述の加入要件を満たす労働者を雇用した際に、加入対象者であることを確認します。
- 必要書類の作成:「雇用保険被保険者資格取得届」などの書類を作成します。この際、労働者の氏名、生年月日、性別、住所、マイナンバー、採用年月日、賃金、雇用契約期間などを記載します。
- ハローワークへの提出:原則として、対象となる労働者を雇用した日の翌日から10日以内に、事業所の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に提出します。
- 雇用保険被保険者証などの交付:手続きが完了すると、ハローワークから事業主宛てに「雇用保険被保険者証」や「雇用保険資格取得等確認通知書」が交付されます。
労働者側での確認方法
労働者自身が直接ハローワークに加入手続きに行く必要は原則ありませんが、以下の方法で自身の雇用保険加入状況を確認することができます。
- 給与明細を確認する:毎月の給与明細に「雇用保険料」が控除されているか確認します。控除されていれば、原則として加入手続きはされています。
- 事業主に確認する:事業主から「雇用保険被保険者証」または「雇用保険資格取得等確認通知書」を受け取っているか確認します。事業主にはこれらの書類を労働者に渡す義務があります。
- ハローワークに照会する:もし給与明細に控除がなく、事業主からも書類を受け取っていないなど、加入しているか不安な場合は、ご自身の住所地または以前の勤務地の管轄ハローワークに問い合わせて、加入状況を照会することができます。その際、本人確認書類などが必要になります。
手続きや給付に関する相談はどこで?(どこに聞く?)
雇用保険に関する手続きや、給付に関する具体的な相談は、以下の窓口で行うことができます。
ハローワーク(公共職業安定所)
これが雇用保険に関する手続きや相談の最も主要な窓口です。
- 事業主:労働者の雇用保険加入手続きの提出先、保険料の納付に関する相談、適用事業所に関する手続きなどを行います。
- 労働者:離職した際の求職申込、失業等給付の受給手続き、育児・介護休業給付金の申請手続き、教育訓練給付金の相談・申請、自身の雇用保険加入状況の照会などを行います。事業所の所在地またはご自身の住所地を管轄するハローワークが窓口となります。
ハローワークの所在地や連絡先は、厚生労働省のウェブサイトなどで確認できます。
厚生労働省、都道府県労働局
雇用保険制度全体の情報や、法改正に関する情報は厚生労働省や都道府県労働局のウェブサイトで確認できます。制度の詳細について調べる場合に役立ちます。
加入後の給付を受けるにはどうする?(給付の受け方)
雇用保険への加入はあくまで前提です。実際に給付を受けるためには、それぞれの給付ごとに定められた要件を満たし、所定の手続きを行う必要があります。
例:求職者給付(失業保険)の受け方
最も一般的な求職者給付(基本手当)を受給するまでの大まかな流れは以下のようになります。
- 離職:会社を離職します。事業主から「雇用保険被保険者離職証明書」などを受け取ります。
- ハローワークへ行く:お住まいの管轄ハローワークに行き、「求職の申込み」を行います。
- 受給資格の決定:離職証明書などを提出し、雇用保険の被保険者期間などが確認され、受給資格があるかどうかが判断されます。
- 雇用保険説明会への出席:受給資格が決定した後、雇用保険の制度や今後の手続きについての説明会に出席します。
- 待期期間・給付制限期間:離職理由に応じて、給付が開始されるまでの待期期間(原則7日間)や、給付制限期間(自己都合退職などの場合)があります。
- 失業の認定:原則として4週間に一度、ハローワークに行き、積極的に就職活動を行っているにもかかわらず失業状態にあることの認定を受けます。
- 基本手当の支給:失業の認定を受けることで、指定した金融機関の口座に基本手当が振り込まれます。
育児休業給付金や介護休業給付金、教育訓練給付金なども、それぞれハローワークへの申請が必要であり、申請期限や必要書類などが定められています。具体的な手続きについては、それぞれの制度の詳細を確認するか、ハローワークに相談することが重要です。
雇用保険への加入は、日本の労働環境における基本的な権利であり、重要な保障です。ご自身の雇用保険の加入状況を確認し、制度を理解しておくことは、安心して働く上で非常に大切です。