【障害高齢者】を取り巻く疑問に答える
「障害高齢者」とは、加齢や疾病、事故などにより心身に何らかの機能障害を抱え、日常生活において支援や介護が必要となった高齢者を指します。単に高齢であるだけでなく、移動、入浴、食事、排泄、認知機能、コミュニケーションなど、生活の様々な場面で困難を抱えていることが特徴です。この特定のグループに焦点を当てることで、彼らが直面する現実、必要な支援、そして社会的な側面を具体的に掘り下げていきます。
【障害高齢者】とは具体的にどのような人々か?
【障害高齢者】という言葉は、一般的に以下の要素を含む人々を指します。
定義と特徴:
- 加齢に伴う身体機能の低下に加え、特定の疾患や外傷が原因で恒常的な機能障害がある。
- 日常生活動作(ADL: Activities of Daily Living)において、介助や支援が必要となることが多い。(例:寝起き、歩行、着替え、食事、入浴、トイレなど)
- 手段的日常生活動作(IADL: Instrumental Activities of Daily Living)にも支障が出やすい。(例:買い物、料理、掃除、服薬管理、金銭管理など)
- 認知機能の低下(認知症)や精神疾患を併発している場合も多い。
- 感覚器(視覚、聴覚など)に障害がある場合もある。
これらの人々は、障害の程度によって要支援や要介護の認定を受け、公的な介護保険サービスなどの対象となります。障害の種類や程度は多様であり、必要な支援も個々人によって大きく異なります。
どれくらいの【障害高齢者】がいるのか?
【障害高齢者】の正確な数を把握することは、使用する定義や統計の取り方によって異なりますが、日本の公的な介護保険制度における要支援・要介護認定者数がおおよその実態を示しています。
具体的な数と傾向:
- 厚生労働省の発表によると、2023年時点で要支援・要介護認定者数は全国で約680万人を超えています。このうち、大部分を高齢者が占めています。
- 特に要介護度が高くなるほど、高齢者の割合が高まります。
- 日本の急速な高齢化に伴い、この要支援・要介護認定者数は年々増加の一途をたどっており、今後も増加が見込まれています。
- 認定者の割合は、75歳以上の後期高齢者で顕著に高くなります。
この統計は、日常生活において何らかの支援が必要な高齢者が、社会全体の中で非常に大きな割合を占めている現実を示しており、彼らへの支援体制の構築が急務であることを物語っています。
なぜ高齢になると障害が発生しやすいのか?
高齢期に心身の機能障害が発生しやすくなる原因は、主に以下の複合的な要因によるものです。
主な発生要因:
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加齢による生理的な衰え:
筋肉量の減少(サルコペニア)、骨密度の低下(骨粗しょう症)、関節の変性、血管の弾力性低下、神経伝達速度の遅延など、体の様々な機能が自然に衰えます。これが身体能力の低下や病気への抵抗力低下につながります。 -
慢性疾患の罹患:
高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管疾患(脳卒中など)、呼吸器疾患、腎疾患などの慢性病は高齢期に多く発症し、これらの病気の後遺症として麻痺や機能障害が残ることがあります。特に脳卒中は、身体障害や言語障害、認知障害の大きな原因となります。 -
転倒・骨折:
バランス能力の低下や筋力低下、視覚・聴覚の衰えにより、高齢者は転倒しやすくなります。骨粗しょう症が進んでいると、わずかな転倒でも骨折(特に大腿骨頸部骨折など)しやすく、これが長期臥床や ADL の著しい低下、さらには寝たきりの原因となります。 -
認知機能の低下(認知症):
アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症など、様々な原因で認知機能が低下し、判断力、記憶力、見当識などが損なわれます。これにより、安全な日常生活を送ることが困難となり、介助が必要となります。 -
感覚器の障害:
白内障や緑内障による視力低下、加齢性難聴などは、生活上の危険を認識しにくくしたり、他者とのコミュニケーションを妨げたりするため、間接的に ADL や QOL の低下につながります。
これらの要因が単独または複合的に作用し、高齢者の心身に障害をもたらします。一度生じた機能障害は、若い頃のように完全に回復することが難しいため、継続的なケアやリハビリテーションが必要となります。
【障害高齢者】はどこで、どのようにケアや支援を受けられるのか?
【障害高齢者】がケアや支援を受ける場所と方法は多岐にわたります。日本の場合は、主に介護保険制度を中心としたサービスが提供されます。
主な場所とサービス:
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自宅:
多くの【障害高齢者】は住み慣れた自宅での生活を希望します。自宅で利用できるサービスは以下の通りです。- 訪問介護(ホームヘルプサービス): ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護(入浴、排泄、食事介助など)や生活援助(掃除、洗濯、買い物など)を行います。
- 訪問看護: 看護師が自宅を訪問し、医療処置、健康管理、服薬指導などを行います。
- 訪問リハビリテーション: 理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、機能訓練や日常生活動作訓練を行います。
- 通所介護(デイサービス): デイサービスセンターに通い、入浴、食事、レクリエーション、機能訓練などを行います。他者との交流の機会にもなります。
- 通所リハビリテーション(デイケア): 医療機関や介護老人保健施設などに通い、医師の指示のもと集中的なリハビリテーションを行います。
- 短期入所生活介護(ショートステイ): 短期間施設に入所し、生活介護や機能訓練を受けます。家族の介護負担軽減にも利用されます。
- 福祉用具貸与・購入費助成: 車いす、介護ベッド、手すりなどの福祉用具のレンタルや購入にかかる費用が助成されます。
- 住宅改修費助成: 自宅に手すりを取り付けたり、段差を解消したりする改修費用が助成されます。
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施設:
自宅での生活が困難になった場合や、より集中的なケアが必要な場合に利用されます。- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム): 要介護度が高い方が入所し、日常生活全般の介護や機能訓練、健康管理を受けられます。原則として終身利用が可能です。
- 介護老人保健施設: 医療ケアとリハビリテーションに重点を置いた施設です。病状が安定し、在宅復帰を目指す方が入所します。
- 介護療養型医療施設: 医療の必要性が高い方が長期療養するための施設です。(現在は廃止・転換が進められています)
- 認知症対応型共同生活介護(グループホーム): 認知症の方が共同生活を営み、専門的なケアを受けながら自立した生活を目指す施設です。
- 有料老人ホーム(介護付、住宅型など): 施設によってサービス内容や入居条件は異なりますが、食事提供や安否確認、介護サービスなどが受けられます。
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病院:
急性期の治療が必要な場合や、リハビリテーション目的で入院することがあります。- 回復期リハビリテーション病棟: 脳卒中や骨折などで急性期治療を終えた方が、集中的なリハビリテーションを行い在宅復帰を目指す病棟です。
- 地域包括ケア病棟: 急性期治療後、すぐに在宅や施設に戻るのが難しい方が、医療管理やリハビリ、在宅準備などを行う病棟です。
サービス利用の流れ:
これらの公的サービスを利用するためには、まず市区町村に申請し、「要支援」または「要介護」の認定を受ける必要があります。認定後、ケアマネジャー(介護支援専門員)が本人の心身の状態や希望、家族の状況などを考慮し、最適なサービス計画(ケアプラン)を作成します。このプランに基づいて、様々な種類のサービスが組み合わせて提供されます。
【障害高齢者】の生活をどのように支え、改善するか?
【障害高齢者】の生活の質(QOL: Quality of Life)を維持・向上させるためには、単に介護を行うだけでなく、多角的なアプローチが必要です。
生活を支え、改善するための方法:
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リハビリテーションの継続:
機能の維持・向上、あるいは低下の抑制のために、継続的なリハビリテーションが非常に重要です。理学療法(運動機能の改善)、作業療法(日常生活動作能力の向上)、言語聴覚療法(摂食・嚥下、コミュニケーションの改善)などがあります。自宅や施設、通所サービスなどで専門職による指導を受けたり、自宅で自主的に取り組んだりします。 -
適切なケアプランの作成と見直し:
本人の状態は常に変化するため、定期的にケアマネジャーやサービス担当者、医師、家族などが集まり、ケアプランが適切か見直しを行います。本人の意向や心身の変化に合わせて、サービス内容や量を調整することが重要です。 -
福祉用具や住環境の整備:
手すりの設置、段差の解消、スロープの設置、滑りにくい床材への変更、介護ベッドや車いすの使用などは、本人の自立を支援し、転倒などの事故を防ぐために効果的です。本人の身体状況や住宅の構造に合わせて専門家(福祉住環境コーディネーターなど)に相談すると良いでしょう。 -
栄養管理と口腔ケア:
低栄養は筋力や免疫力の低下を招き、ADL をさらに低下させる要因となります。適切な栄養摂取が重要です。また、口腔内の健康は誤嚥性肺炎の予防や全身の健康に繋がるため、日々の口腔ケアも欠かせません。 -
社会参加の促進:
閉じこもりは心身機能の低下を加速させます。デイサービスへの通所、地域のサロンや趣味の活動への参加、ボランティアとの交流などを通じて、社会との繋がりを保つことが精神的な健康や生きがいにつながります。 -
家族や介護者の支援:
介護は家族にとって身体的、精神的、経済的に大きな負担となることがあります。介護教室への参加、相談窓口の利用、レスパイトケア(ショートステイなどを利用して介護者が休息を取ること)などを活用し、介護者自身の健康と生活を守ることも、結果的に本人への安定した支援に繋がります。 -
医療との連携:
持病の管理や新たな疾患の早期発見・治療のために、かかりつけ医との連携は不可欠です。介護サービスを利用する上でも、医療情報はケアプラン作成の重要な要素となります。
これらの様々な支援を組み合わせることで、【障害高齢者】が可能な限り自立した生活を送り、人間としての尊厳を保ちながら、住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるようになります。
【障害高齢者】への支援は、本人だけでなく、その家族、そして地域社会全体で取り組むべき課題です。彼らが直面する困難を理解し、個々のニーズに合わせた具体的かつ柔軟な支援を提供していくことが、超高齢社会における重要な責務と言えるでしょう。