阪神淡路大震災の地震強度
(発生日:1995年1月17日)
阪神淡路大震災の地震強度概況
阪神淡路大震災は、1995年1月17日に発生し、日本の観測史上、都市直下型地震として甚大な被害をもたらしました。この地震による被害の規模や特徴を理解する上で、「震度(しんど)」は極めて重要な指標となります。震度とは、ある地点での地震の揺れの強さを表す日本の尺度であり、地震の規模そのものを示すマグニチュードとは異なります。阪神淡路大震災では、特に震源に近い地域で、当時の日本の震度階級における最大値が観測され、その後の防災対策に大きな影響を与えました。
最高震度はどのくらいでしたか?
阪神淡路大震災で観測された最高震度は、当時の気象庁震度階級で最大の「震度7」でした。これは、立っていることが困難で、這わないと動けないほどの非常に激しい揺れであり、木造家屋の多くが倒壊し、鉄筋コンクリート造りの建物にも深刻な被害が生じるレベルとされています。
注: 当時の震度階級は0から7までの8段階でしたが、阪神淡路大震災での被害の差などを踏まえ、1996年に震度5と震度6がそれぞれ「弱」と「強」に細分化され、現在の10段階(0, 1, 2, 3, 4, 5弱, 5強, 6弱, 6強, 7)となりました。阪神淡路大震災当時の公式記録は旧震度階級に基づいています。
震度7はどこで観測されましたか?
この地震で震度7が観測された地域は以下の通りです。これらの地点は、地震を引き起こした活断層(野島断層など)のごく近傍に位置していました。
- 兵庫県神戸市: 中央区、灘区、東灘区
- 兵庫県西宮市
- 兵庫県芦屋市
- 兵庫県宝塚市
- 兵庫県淡路島: 当時の北淡町(現在の淡路市の一部)
これらの地域は、特に建物の倒壊率が高く、壊滅的な被害を受けました。
震度は受災区域全体でどのように分布しましたか?
震度は震源からの距離だけでなく、地盤の種類や断層の破壊特性によって大きく異なります。阪神淡路大震災の場合、震度7の地域は帯状に集中して分布しており、その周辺地域では震度6や震度5といった強い揺れが観測されました。例えば、大阪市中心部や京都市など、兵庫県南部からやや離れた地域でも震度4や5の揺れが観測され、広範囲で被害が発生しました。
気象庁が発表した「震度分布図」を見ると、震度の高い地域が野島断層から六甲・淡路島断層帯に沿って広がっていることがわかります。軟弱な沖積平野や埋立地が広がる臨海部、特に神戸市東灘区の人工島や沿岸部などでは、同じ距離でも地盤が固い内陸部に比べて揺れが増幅され、震度が高くなる傾向が見られました。
なぜ特定の地域で震度がこれほど高くなったのですか?
震度が高い特定地域が出現した要因は複合的です。
- 震源の深さが浅かったこと(約16km): 震源が地表に非常に近かったため、エネルギーが地表に伝わる際の減衰が少なく、強い揺れが発生しました。
- 直下型地震であったこと: 人口密集地である神戸市街地の真下またはそのすぐ近くで活断層が破壊したため、都市が強い揺れに直接晒されました。
- 断層破壊の伝播(ダイレクティビティ効果): 断層破壊が南西側(淡路島北部)から北東側(神戸市街地)へ向かって進行したと考えられています。断層の破壊が特定の方向に伝播すると、その方向で地震波のエネルギーが集中・増幅される「ダイレクティビティ効果」が生じ、破壊が進んだ神戸市街地などが特に激しい揺れに見舞われたと考えられています。
- 地盤の影響: 神戸市や周辺地域には、沖積層や人工的な埋立地など、軟弱な地盤が多く存在します。地震波は固い地盤から軟らかい地盤に入る際に大きく増幅される性質があるため、これらの地域で揺れが一層強められました。
日本の地震震度はどのように測定されているのですか?(当時の方式を中心に)
阪神淡路大震災発生当時の日本の震度観測体制は、現在とは異なっていました。当時は、気象庁職員や委託観測者による「体感や被害状況に基づいた判定」が震度決定の主要な手段であり、補助的に一部の気象官署に設置されていた旧式の地震計の記録も参考にされていました。震度7という判定は、主にその場所で発生した壊滅的な被害状況(家屋の倒壊率など)や、体感(立っていられない、飛ばされるなど)に基づいて行われていました。
この判定方法では、同じ震度でも場所によって揺れの質や被害の程度にばらつきが生じるという課題がありました。阪神淡路大震災の経験を踏まえ、揺れの客観的な強さを正確に測定することの重要性が認識され、その後、全国各地に「計測震度計」が多数設置されることになりました。現在の日本の震度は、この計測震度計による加速度波形データから計算される「計測震度」に基づいて自動的に決定・発表されており、当時の判定方法とは根本的に異なっています。
地震震度と実際の破壊・被害はどのように関連しましたか?
地震震度はその場所の揺れの強さを示すため、建物の被害やインフラへの影響と極めて密接に関連します。阪神淡路大震災での具体的な被害状況は、震度と被害の関係を明確に示しました。
- 震度7の地域:
- 耐震性の低い木造家屋は80%以上が全壊または半壊し、「帯状の壊滅」とも呼ばれる深刻な被害が発生しました。
- 阪神高速道路の高架橋が約600mにわたって倒壊・横倒しになるなど、巨大な構造物にも甚大な被害が出ました。
- JR神戸線の列車が脱線・横転しました。
- 神戸港沖の人工島や埋立地などで広範囲にわたる液状化現象が発生し、岸壁の崩壊、地盤の沈下、噴砂・噴水などが見られました。
- 電気、ガス、水道、通信といったライフラインが広範囲で寸断され、復旧に時間を要しました。
- 震度6の地域:
- 木造家屋の倒壊率が高く、建物の耐震性が被害の大きさを大きく左右しました。
- 大規模なブロック塀や石垣が多数倒壊しました。
- 震度5の地域:
- 瓦の落下や壁のひび割れなど、建物の部分的な損傷が多く見られました。
- 古い木造家屋や非木造建築の一部にも倒壊や損壊が発生しました。
- 墓石の転倒などが多数発生しました。
このように、震度が高い地域ほど被害が甚大化することが明らかであり、特に震度6以上の揺れは、当時の多くの建築物にとって極めて危険なレベルであることが再認識されました。この経験が、その後の耐震基準の見直しや建築物の耐震化促進に繋がっています。
震度と地震規模(マグニチュード)の違い
地震の大きさを表す尺度として、震度とともによく耳にするのがマグニチュードです。この二つは混同されがちですが、異なる概念です。
- マグニチュード(Magnitude): 地震そのものが持つエネルギーの大きさを表す尺度です。震源で放出されるエネルギー量に基づいて計算されるため、一つの地震に対して値は一つだけです。阪神淡路大震災のマグニチュードは、日本の気象庁マグニチュード(Mj)で7.3、モーメントマグニチュード(Mw)では6.9と推定されています。
- 震度(Shindo): 地震発生時、特定の場所での地面の揺れの強さ、それによって人間や建物が受ける影響の度合いを表す尺度です。震度は震源からの距離、地下構造、地盤の軟らかさなどによって場所ごとに異なります。マグニチュードが同じ地震でも、震度は場所によって大きく変わる可能性があります。
例えるなら、マグニチュードは「電球のワット数」のように光源そのものの明るさ(エネルギー)を表し、震度は「部屋の場所ごとの明るさ」のように、その場所に到達した光(揺れ)の強さを表す、と考えると分かりやすいかもしれません。
まとめ
阪神淡路大震災における最高震度7という極めて強い揺れが特定の地域に集中し、それが壊滅的な被害をもたらした事実は、日本の地震防災において震度情報の重要性を改めて浮き彫りにしました。震度分布の詳細な分析は、震源の浅さ、断層破壊の向き(ダイレクティビティ)、そして特に軟弱地盤での揺れの増幅が被害を拡大させた主要因であることを明らかにしました。この経験から得られた教訓は、その後の震度観測体制の抜本的な見直し、建築物の耐震基準強化、そしてハザードマップ作成における地盤情報の重視など、現在の日本の地震対策の基礎となっています。震度は単なる数値ではなく、その場所で発生するであろう揺れの強さと、それによって引き起こされる可能性のある被害を具体的にイメージするための不可欠な情報源なのです。