視覚障害者とは何ですか?

視覚障害者とは、様々な原因により視力や視野などに障害があり、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人々の総称です。単に「見えない」ということだけでなく、ぼやけて見える、一部しか見えない、光を感じにくい、色が識別しにくいなど、その状態は多岐にわたります。

定義と種類

視覚障害の定義は、国や制度によって異なりますが、一般的には以下のような状態を含みます。

  • 弱視(Low Vision):メガネやコンタクトレンズを使っても十分な視力が出ない状態。拡大鏡や文字を大きくするなどの工夫で情報を得ることが可能な場合があります。
  • 全盲(Blindness):光も全く感じない、あるいは光は感じるものの、ものの形や動きを識別することが極めて難しい状態。主に点字や音声情報で情報を得ます。
  • 視野障害:視力は良くても、見える範囲(視野)が狭い、中心が見えない、一部が欠けて見えるなどの状態。
  • 色覚障害:特定の色を識別することが困難な状態。

障害の程度

視覚障害の程度は、身体障害者手帳の等級などで区分されます。日本の場合は、視力や視野によって1級から6級までが定められており、等級が低いほど障害の程度が重いとされます。例えば、1級は「両眼の視力0.01以下」あるいは「両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの」など、厳格な基準があります。この等級によって受けられる福祉サービスなどが異なります。

日常生活を支えるツール

視覚障害者が日常生活を送る上で、様々な補助具や支援ツールが活用されています。

  • 白杖(はくじょう):歩行時に路面の状況や障害物を探るために使われる杖。視覚障害者のシンボルでもあります。
  • 盲導犬:訓練を受けた犬が、視覚障害者の安全な歩行をサポートします。
  • 拡大読書器や拡大鏡:本や書類などの文字を拡大して見るための機器や道具。
  • 点字ディスプレイや点字プリンター:パソコンなどの情報を点字で読み取ったり、印字したりするための機器。
  • スクリーンリーダー:パソコンやスマートフォンの画面上の文字情報を音声で読み上げるソフトウェア。
  • 音声読み上げ機能付き製品:時間を音声で知らせる時計、金額を読み上げるレジ、色を判別して音声で知らせるカラーメイトなど。
  • 触覚・音声ガイド:駅の点字ブロック、音声誘導装置、触知案内板など。

なぜ視覚障害が起きるのですか?

視覚障害の原因は非常に多様であり、生まれつきのもの(先天性)と、病気や怪我などによって後天的に起こるものがあります。年齢によっても発症しやすい病気は異なります。

主な原因

後天性の視覚障害の主な原因としては、以下のような目の病気が挙げられます。

  • 糖尿病網膜症:糖尿病の合併症として網膜の血管が傷つき、出血や剥離などを引き起こし、失明に至ることもあります。
  • 緑内障:眼圧の上昇などにより視神経が傷つき、視野が徐々に欠けていく病気。初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れることがあります。
  • 加齢黄斑変性:加齢に伴い、ものの中心を見るのに重要な黄斑部がダメージを受け、視力や視野に影響が出る病気。欧米では失明原因のトップとなっています。
  • 白内障:目のレンズである水晶体が濁り、視力が低下する病気。手術で改善することが多いですが、進行すると高度な視覚障害につながることもあります。
  • 網膜色素変性症:網膜の細胞が徐々に失われていく遺伝性の病気。夜盲(暗いところで見えにくい)や視野狭窄から始まり、進行すると中心視力も失われます。
  • 脳卒中や頭部外傷:視覚に関わる脳の部位がダメージを受けることで、視力や視野に影響が出ることがあります。

先天性の原因としては、網膜や視神経の発育異常、遺伝性の疾患(先天性無虹彩症、レーバー病など)などがあります。原因によっては進行性のものもあり、徐々に視力が低下していく場合もあります。

どれくらいの人が視覚障害を抱えていますか?

視覚障害者の正確な人数を把握するのは難しいですが、世界保健機関(WHO)の報告によると、世界には相当数の視覚障害者が存在するとされています。

  • 世界の現状:WHOの2021年の報告では、世界の約22億人が近視や遠視を含む何らかの視覚障害を抱えており、そのうち少なくとも10億人は予防または治療が可能であったとされています。中等度以上の視覚障害や失明に至っている人は、数億人に上ると推定されています。
  • 日本の状況:日本国内の視覚障害者数は、様々な調査がありますが、厚生労働省の患者調査などから、弱視も含めると数十万人から100万人以上が存在するという推計もあります。高齢化に伴い、緑内障や加齢黄斑変性といった加齢性の疾患が増加傾向にあり、視覚障害者数も増加する可能性があります。視覚障害は、決して特別な人だけが抱える障害ではなく、私たちの社会に身近に存在するものと言えます。

視覚障害者はどこで支援を受けられますか?

視覚障害を抱える人々が、より自立した質の高い生活を送るためには、様々な形の支援が必要です。

公的機関と民間団体

支援を提供する機関は多岐にわたります。

  • 福祉事務所・自治体:身体障害者手帳の申請、各種福祉サービスの案内や申請(補装具・日常生活用具の給付、医療費助成、手当など)、相談窓口など。
  • 都道府県リハビリテーションセンター・施設:視覚障害に特化した専門的なリハビリテーションプログラム(歩行訓練、点字訓練、日常生活動作訓練、パソコン・情報機器活用訓練など)を提供。
  • 視覚特別支援学校:児童生徒に対する教育に加え、地域の視覚障害者への教育相談や支援を行う場合があります。
  • 病院(眼科・ロービジョン外来):医学的な治療や、拡大鏡などの補助具の選定・使い方指導など、医学的な視点からのサポート。
  • 視覚障害者団体(当事者団体):同じ視覚障害を持つ人々によるピアサポート(仲間同士の支え合い)、情報交換、研修会、権利擁護活動など。
  • 盲導犬協会:盲導犬の育成・貸与、歩行指導。
  • 点字図書館・DAISY図書館:点字図書や録音図書(DAISY図書)の貸し出し、対面朗読サービスなど、情報アクセスの支援。

リハビリテーションと訓練

失われた視覚機能を回復させることは難しい場合が多いですが、残された視覚や他の感覚(聴覚、触覚など)を最大限に活用し、自立した生活を送るための訓練(視覚障害者リハビリテーション)が非常に重要です。これには、安全に歩くための訓練(オリエンテーション&モビリティ訓練)、点字やパソコンを使って情報を得る訓練、料理や掃除といった家事を行うための訓練などが含まれます。

視覚障害者はどのように日常生活を送っていますか?

視覚障害者は、残された感覚や様々な工夫、支援機器を活用することで、多様な方法で日常生活を送っています。

移動・ナビゲーション

安全に目的地まで移動するために、主に以下の方法が使われます。

  • 白杖歩行:白杖を使って足元の路面や障害物を探りながら歩きます。訓練により様々な技術を習得します。
  • 盲導犬との歩行:盲導犬が障害物を避けたり、曲がり角や段差を教えたりすることで安全な歩行を助けます。指示を出すのは使用者自身です。
  • sighted guide(晴眼者による誘導):晴眼者の腕に軽くつかまるなどして、誘導してもらいながら歩きます。誘導する側は、歩く速さや進行方向、段差や障害物について声で知らせるなどの配慮が必要です。
  • 記憶と触覚:よく知っている場所では、道順を記憶したり、手すりや壁などの触覚的な情報、あるいは音(車の音、水の流れる音など)を頼りに移動します。
  • ナビゲーションアプリ:音声ガイド付きのスマートフォンの地図アプリや、視覚障害者向けのナビゲーションアプリも活用されています。

情報の取得(読む・書く)

視覚に頼るのが難しい文字情報を得るために、様々な手段があります。

  • 点字:6つの点の組み合わせで文字や記号を表現します。指先の触覚で読み取ります。点字図書や公共施設の案内などに使われています。点字タイプライターや点字入力対応のキーボードで書くこともできます。
  • 音声:書籍や資料を朗読してもらった録音図書(DAISY)、テレビや映画の解説放送、パソコンやスマートフォンのスクリーンリーダーによる音声読み上げなどを利用します。
  • 拡大:弱視者などは、拡大鏡や拡大読書器、パソコン・スマートフォンの画面拡大機能を使って文字を大きくして読みます。大きな文字で印刷された「大活字本」もあります。
  • 対面朗読:図書館などで、ボランティアなどに本や書類を直接読み上げてもらうサービスです。

テクノロジーの活用

近年のテクノロジーの進化は、視覚障害者の情報アクセスやコミュニケーションを大きく変えました。

  • スマートフォン・タブレット:スクリーンリーダーや音声認識機能、画面拡大機能、コントラスト調整機能などが標準搭載されており、視覚障害者にとって非常に強力な情報端末となっています。文字認識アプリで印刷物を読み上げさせたり、カメラで周囲の状況を確認したりすることも可能です。
  • パソコン:スクリーンリーダーや画面拡大ソフト、音声入力ソフトなどを活用し、仕事や学習、インターネット利用などを行います。
  • AIアシスタント:スマートスピーカーなどに話しかけて情報検索や家電操作などを行うことができます。

家事やその他の活動

料理、洗濯、掃除といった家事や、趣味活動なども工夫して行っています。

  • 触覚的な工夫:家電のスイッチに触覚的な目印(点字シールやポッチ)をつけたり、衣類の色を識別するために小さなタグをつけたりします。
  • 音声・触覚製品:しゃべる体重計、タイマー、炊飯器など、音声で操作状況や結果を知らせる家電があります。点字や大きな文字で表記された製品もあります。
  • 整理整頓:物の定位置を決め、使ったら必ず元に戻すことで、探し物をする手間を省きます。
  • 趣味・スポーツ:音楽鑑賞、楽器演奏、マッサージ、パラリンピック競技(ゴールボール、ブラインドマラソンなど)など、様々な活動に参加しています。

視覚障害者とどのようにコミュニケーションを取り、接すれば良いですか?

視覚障害者とのコミュニケーションや接し方において、いくつかの基本的な配慮を知っておくことで、より円滑で快適な関係を築くことができます。

基本的な配慮とマナー

これは特別なことではなく、お互いを尊重するための基本的なマナーです。

  • まず声をかける:近くにいることに気づいても、相手からは見えていない可能性があります。「こんにちは」「何かお手伝いしましょうか?」など、まずは声に出して存在を知らせてください。
  • 自己紹介をする:声だけでは相手が誰か分からない場合があります。「〇〇です」と名乗ることで、相手は安心して対応できます。
  • 話しかける相手を特定する:複数人で話している時は、「〇〇さん」と名前を呼んでから話しかけると、誰に話しているのかが明確になります。
  • 話しかけながら体を触らない:相手を驚かせてしまう可能性があるため、声をかけるだけで十分です。誘導などの場合は、必ず事前に許可を得てください。
  • 話しかける時は相手の方を向く:声の方向で誰が話しているかを判断しやすくするためです。
  • 話の終わりや自分がその場を離れることを伝える:突然会話が終わったり、相手が声のする方へ話しかけても誰もいなくなっていたりすると、不安になる場合があります。「では、失礼します」「これで終わりますね」などと一言伝えてください。
  • 「ほら」「あれ」などの指示代名詞を避ける:相手には何を示しているか分からないため、「あなたの右側にあるテーブルの上の〇〇」のように、具体的に表現することが重要です。
  • 点字ブロックの上に立ち止まらない、物を置かない:点字ブロックは視覚障害者の安全な歩行をガイドする重要なものです。その上にいると歩行の妨げになります。
  • 盲導犬に勝手に触ったり、声をかけたりしない:盲導犬は仕事中です。使用者からの指示に集中しているため、声をかけたり触ったりして気を散らさないようにしましょう。

声かけと誘導

困っている様子の視覚障害者を見かけたら、「何かお困りですか?」と声をかけてみてください。助けが必要かを確認し、必要であればサポートします。

  • 誘導を申し出る場合:「もしよろしければ、そこまでご案内しましょうか?」などと具体的な手助けを提案します。
  • 誘導する際の注意点:誘導をOKされたら、自分の肘や肩に相手が軽くつかまるように促します。相手の半歩前を歩き、段差(上り・下り)や曲がり角、狭い道、障害物などがあれば、その都度「段差があります」「右に曲がります」「頭上に注意」などと具体的に声で知らせます。相手のペースに合わせてゆっくり歩くことが大切です。
  • 席を案内する場合:席の場所まで誘導し、「こちらの椅子です」「椅子の背もたれです」などと声で伝え、可能であれば相手の手を椅子の背もたれなどに触れてもらうと、座るのを助けられます。

環境の配慮

周囲の環境が安全で分かりやすいことも重要です。

  • 物を元の場所に戻す:特に自宅や職場などで、家具の配置を変えたり、物を移動させたりした場合は、必ず相手に知らせるか、元の場所に戻すようにします。
  • 通路を確保する:廊下や階段などに荷物や障害物を置かないようにします。
  • 危険箇所を知らせる:工事中の場所や、足元に危険な物がある場合などは、具体的に伝えます。

社会全体のインクルージョンに向けて

視覚障害を持つ人々が社会の中で生き生きと暮らすためには、個々の配慮だけでなく、社会全体の理解と環境整備が進むことが不可欠です。公共交通機関や建物のバリアフリー化、ウェブサイトや情報端末のアクセシビリティ向上、解説付き放送の充実など、様々な取り組みが求められています。視覚障害は多様であり、一人ひとりのニーズも異なります。大切なのは、固定観念を持たず、相手に寄り添い、必要なサポートについて尋ねる姿勢を持つことです。相互理解と少しの配慮が、誰もが暮らしやすい包容的な社会を築く第一歩となります。


視覚障害者

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