移住支援金とは?具体的な制度の概要

「移住支援金」とは、主に東京圏からの地方への移住を促進し、地方の担い手不足解消や地域活性化を目的とした国の制度です。これは、国が示す基本方針に基づき、各都道府県と市町村が連携して実施しています。単に「移住したらいくらもらえる」という性質のものではなく、特定の条件を満たし、移住先の地域に根差して生活・仕事をしていく意思のある方々を支援するための制度です。

この制度は、対象となる地域や、移住される方の状況(就職、起業、テレワークなど)に応じて、支援金の額や要件が異なります。そのため、申請を検討する際には、移住先の具体的な市区町村の情報を確認することが非常に重要になります。

なぜ移住支援金があるのか?制度の目的と背景

移住支援金制度が設けられている背景には、日本の抱える構造的な課題があります。主な目的は以下の通りです。

  • 地方の人口減少・高齢化への対策
  • 東京圏への一極集中緩和
  • 地域経済の活性化、多様な働き方の推進

特に、若い世代や働き盛りの世代が地方へ移住し、そこで就職したり、起業したり、あるいは東京圏の仕事を続けながら地方で生活したりすることで、地域の活力が維持・向上されることが期待されています。この支援金は、移住にかかる初期費用や、新しい生活・仕事への移行を経済的にサポートすることで、移住へのハードルを下げる役割を果たしています。

どこで移住支援金がもらえる?対象地域について

移住支援金制度は、日本全国どこでも実施されているわけではありません。国の制度方針に基づき、多くの都道府県が制度を導入していますが、その都道府県内の全ての市町村が対象となるわけではありません。

基本的に、東京圏以外の道府県が対象となります。さらに、その道府県内でも、過疎地域や条件不利地域など、特に移住を促進したいと考えている特定の市町村が移住支援金の対象として指定されています。

移住を検討している方は、まず「どの道府県のどの市町村に移住したいか」を明確にし、その上で、検討している市町村が移住支援金の対象となっているか、またその市町村が定める独自の要件や加算措置があるかなどを確認する必要があります。情報収集は、希望する市町村の公式ウェブサイトや、移住相談窓口で行うのが最も確実です。

いくらもらえる?移住支援金の支給額

移住支援金の支給額は、移住元の地域、移住先の地域、世帯の状況(単身・世帯)、移住後の働き方などによって大きく異なります。しかし、国の制度としての上限額の目安は定められています。

基本的な支給額(目安)

  • 単身の場合: 最大60万円
  • 世帯の場合: 最大100万円

これはあくまで国の示す目安であり、多くの自治体ではこの範囲内で具体的な金額を定めています。 100万円を上限としている自治体が多いですが、それ以下の額の場合や、特定の条件を満たすと加算される場合があります。

子育て世帯への加算

多くの自治体では、18歳未満(またはそれに準ずる年齢)の子どもがいる世帯に対して、上記金額に加えて加算措置を設けています。

  • 子どもの人数に応じた加算: 子ども一人あたり最大30万円などの加算があります(金額は自治体による)。

起業の場合の加算

「起業タイプ」として移住支援金の対象となる場合、上記金額に加えて、都道府県が実施する「起業支援事業」による最大300万円の起業支援金の対象となる可能性があります(移住支援金とは別の制度ですが、連携して運用されることが多いです)。

このように、最終的に受け取れる金額は、自治体の制度設計によって大きく変わるため、必ず移住先の自治体の情報を確認してください。

どうすればもらえる?対象者要件と申請プロセス

移住支援金を受け取るためには、国の定める基本要件に加え、移住先の各都道府県・市町村が定める詳細な要件を全て満たす必要があります。要件は多岐にわたりますが、主に以下の柱から構成されます。

1. 移住元に関する要件

主に東京23区の在住者または通勤者が対象となります。

  • 住民票を移す直前の10年間のうち、合計5年以上、東京23区に在住していたこと。
  • または、住民票を移す直前の10年間のうち、合計5年以上、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)のうちの条件不利地域以外の地域に在住し、かつ、住民票を移す直前の3年間のうち、合計1年以上、東京23区に通勤していたこと。
  • さらに、住民票を移す直前に、連続して1年以上、東京23区に在住または東京圏のうちの条件不利地域以外の地域に在住し、かつ東京23区に通勤していたこと。(ただし、東京圏の条件不利地域以外の地域に在住しつつ東京23区内の大学等へ通学し、東京23区内の企業等へ就職した方は、通学期間も本要件の対象となる場合があります。)

【東京圏内の条件不利地域とは】
東京都:檜原村、奥多摩町、大島町、利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、八丈町、青ヶ島村、小笠原村
埼玉県:秩父市、飯能市、本庄市、ときがわ町、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町、東秩父村、神川町
千葉県:館山市、勝浦市、鴨川市、富津市、いすみ市、南房総市、東庄町、長南町、大多喜町、御宿町、鋸南町
神奈川県:山北町、真鶴町、清川村

2. 移住先に関する要件

移住支援金の対象として指定されている都道府県内の市町村に移住することが必要です。

  • 移住先の市町村に住民票を移し、移住支援金の申請時において、移住後1年以内であること。
  • 移住先の市町村に、5年以上継続して居住する意思があること。

3. 就業・起業に関する要件

移住後、どのように生計を立てるかによって要件が異なります。

就業タイプ

  • 都道府県がマッチングサイト等を通じて移住支援金の対象として掲載している求人に新規で就業すること。
  • または、プロフェッショナル人材事業を活用して就業すること。
  • または、内閣府が実施する地方創生人材支援制度により派遣されること。

【注意点】就業タイプの対象となる仕事は、移住先の都道府県や市町村が指定した特定の業種や求人に限られることが一般的です。自分で見つけた仕事でも、その自治体の対象求人リストに載っていない場合は、支援金の対象とならないことがあります。また、就業先において、週20時間以上の無期雇用契約に基づいて対象法人に5年以上継続して勤務する意思があることなどが要件となります。

起業タイプ

  • 移住先の都道府県が実施する「地域課題解決型起業支援事業」の交付決定を受けて、起業すること。

起業タイプの場合、まずは都道府県の起業支援事業に応募・採択されるプロセスが必要です。

テレワークタイプ(一部自治体で実施)

東京23区内に勤務する企業等に在籍しつつ、移住先の地域でテレワークにより引き続き業務を行う場合に対象となる場合があります。

  • 所属企業等からの命令ではなく、自己の意思により移住先での暮らしを選択したこと。
  • 移住先の市町村を生活の本拠とし、移住元での業務を引き続き行うこと。
  • デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)を活用した取り組みの中で企業から資金提供を受けていないこと。
  • その他、自治体が定める要件を満たすこと。

テレワークタイプは、まだ全ての自治体で導入されているわけではありません。また、企業によっては移住元の事業所への出勤が年に数回義務付けられている場合でも対象となるなど、要件が自治体によって異なります。

4. その他の要件

  • 暴力団等の反社会勢力または反社会勢力との関係を有する者でないこと。
  • 日本人であること、または永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者若しくは特別永住者のいずれかの在留資格を有すること。
  • その他、各都道府県・市町村が定める移住支援金の対象ではない者(例:移住先の自治体の職員、法人税等を滞納している者など)でないこと。

これらの要件を全て満たした上で、移住先の市町村に申請書類を提出します。

申請の一般的な流れ

申請の流れは自治体によって多少異なりますが、一般的なステップは以下のようになります。

  1. 情報収集: 移住を検討している市町村が移住支援金の対象か確認し、その自治体の詳細な要件、申請期間、必要書類などを公式ウェブサイトで確認します。
  2. 移住・転入: 検討している市町村に実際に移住し、住民票を移します。
  3. 就業・起業・テレワークの開始: 要件を満たす形で就業を開始するか、起業支援事業の決定を受けるか、テレワークを開始します。(就業タイプの場合、移住より先に仕事を決めている方がスムーズです)
  4. 申請書類の準備: 住民票の写し、戸籍の附票、離職票や就業証明書、起業支援事業の決定通知書、住民税の納税証明書など、自治体が指定する各種書類を準備します。東京23区への通勤歴を証明する書類(在勤証明書など)が必要になることもあります。
  5. 申請: 必要書類を揃え、移住先の市町村の担当窓口に申請します。申請期間が定められていることが多いので注意が必要です。
  6. 審査・決定: 提出された書類に基づき、自治体が審査を行います。要件を満たしていると判断されれば、交付決定通知書が送付されます。
  7. 支援金の受領: 交付決定後、指定の口座に支援金が振り込まれます。

重要な点として、多くの自治体では、住民票を移した後に、就職や起業などの要件を満たした状態で申請を受け付けています。移住前や、住民票を移して間もない時期でないと申請できない場合もありますので、申請期間とタイミングは必ず確認してください。また、予算には限りがあるため、年度途中で受付を終了する自治体もあります。

申請を検討する上での注意点と返還義務

移住支援金の申請にあたっては、いくつかの重要な注意点があります。特に、支援金を受け取った後の義務や、返還に関する規定は必ず理解しておきましょう。

注意点

  • 自治体によって要件が異なる: 国の基本方針はありますが、最終的な要件、対象職種、加算措置、申請期間などは各市町村が決定します。必ず移住先の市町村の最新情報を確認してください。
  • 申請期間と予算: 多くの自治体では、年度ごとに申請期間が設けられており、予算の上限に達し次第、期間内でも受付を終了することがあります。早めの情報収集と準備が必要です。
  • 必要書類の準備: 移住元での在住・通勤期間を証明する書類など、普段手元にない書類が必要になることがあります。計画的に準備を進めましょう。
  • 対象となる働き方: 就業タイプの場合、対象となる仕事は限定的です。「対象法人」や「都道府県が運営するマッチングサイト掲載求人」といった指定があることが多いです。事前に確認せず仕事を決めてしまうと、支援金対象外となる可能性があります。

返還義務について

移住支援金は、移住先に定住し、地域の一員として生活・就業・起業を継続することを前提とした制度です。そのため、以下の条件に該当する場合、支援金の返還を求められることがあります。

  • 移住支援金の交付申請日から5年未満に、移住先の市町村から転出した場合。
  • 起業タイプの場合、交付決定日から5年以内に、起業を廃止した場合。
  • 就業タイプの場合、交付決定日から1年以内に、対象法人での就業を辞めた場合。
  • その他、虚偽の申請をした場合など、自治体の要綱に違反した場合。

返還を求められる金額は、転出した時期や要件違反の内容によって、全額または一部となる場合があります。例えば、5年未満での転出でも、3年以上5年未満の場合は返還を求められない、といった規定を設けている自治体もあります。しかし、一般的には3年未満での転出や1年未満での離職は、返還義務が発生する可能性が高いと考えられます。

支援金を受け取った後すぐに、あるいは短期間で移住先から転出したり、仕事をやめたりすると、せっかく受け取った支援金を返還することになるだけでなく、自治体との信頼関係を損なうことにもなります。移住支援金は、あくまで新しい生活と地域への貢献を長期的にサポートするための制度であることを理解し、慎重な計画の上で申請することが重要です。

移住支援金は、地方への移住を後押しする大変魅力的な制度ですが、詳細な要件や申請プロセス、そして受け取った後の義務について十分に理解しておくことが、トラブルなく制度を活用するために不可欠です。まずは、希望する移住先の自治体の公式情報をしっかりと確認することから始めましょう。


移住支援金

By admin

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