確定申告における保険料控除は、特定の保険契約に基づいて支払った保険料を、所得から差し引くことができる制度です。これにより、課税対象となる所得が減少し、所得税や住民税の負担を軽減することができます。この控除を正しく理解し、適用することで、税負担を適正化することが可能です。
保険料控除とは?何が対象となるのか?
保険料控除とは、納税者が自身や生計を一にする親族のために支払った、特定の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料などを所得から差し引くことができる制度です。これにより、所得税や住民税の計算において、課税される所得金額を減らすことができます。
控除の対象となる保険の種類
保険料控除の対象となる保険料は、主に以下の3つの種類に分類されます。さらに、平成24年1月1日以後に締結した保険契約(新契約)と、それ以前に締結した保険契約(旧契約)とで控除額の計算方法が異なります。
- 一般生命保険料控除
死亡や高度障害などに備える生命保険や、学資保険、養老保険、収入保障保険などが該当します。旧契約と新契約で計算方法が異なります。 - 介護医療保険料控除
入院や通院などに伴う医療費や、特定の疾病、要介護状態に備える医療保険や介護保険などが該当します。これは新契約にのみ適用される区分です(旧契約にはこの区分はありません)。 - 個人年金保険料控除
保険料の払込期間や年金の受取開始年齢などが一定の要件を満たす個人年金保険が該当します。保険会社等により発行される「個人年金保険料税制適格特約」が付加されている契約などがこれに該当します。旧契約と新契約で計算方法が異なります。
これらの対象となる保険料は、保険会社から送付される「保険料控除証明書」で確認することができます。
控除の対象とならない主な保険料
以下の保険料は、所得税における保険料控除の対象とはなりません。
- 損害保険料(地震保険料控除の対象となるものを除く)
- 自動車保険料
- 火災保険料
- 傷害保険料(一部、生命保険料控除の対象となるものもありますが限定的です)
- 財形貯蓄の積立金
なぜ保険料控除ができるのか?(制度の目的)
保険料控除は、国民が病気や老後、万が一の場合に備えて自助努力で保険に加入することを奨励し、将来の生活に対する不安を軽減することで、社会保障制度を補完する役割を果たしています。特定の保険料を支払う納税者の税負担を軽減することで、これらの保険への加入を促進し、国民生活の安定を図る目的があります。
控除額はいくら?計算方法と上限
保険料控除額は、支払った保険料の金額に基づいて計算されますが、保険の種類(一般生命、介護医療、個人年金)ごと、および契約の時期(新契約か旧契約か)によって計算方法と上限額が異なります。
新契約(平成24年1月1日以後に締結した保険契約)
新契約の一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料は、それぞれ以下の速算表を用いて控除額を計算します。各種類の控除額には上限があります。
【新契約の速算表】
- 支払った保険料が20,000円以下の場合:支払った保険料の全額
- 支払った保険料が20,000円超 40,000円以下の場合:支払った保険料 × 1/2 + 10,000円
- 支払った保険料が40,000円超 80,000円以下の場合:支払った保険料 × 1/4 + 20,000円
- 支払った保険料が80,000円超の場合:一律40,000円
それぞれの控除額の上限は、一般生命保険料控除が40,000円、介護医療保険料控除が40,000円、個人年金保険料控除が40,000円です。
所得税の保険料控除額の合計上限額(新契約のみの場合)
新契約のみの場合、上記の3つの控除額の合計で、120,000円が上限となります。
旧契約(平成23年12月31日以前に締結した保険契約)
旧契約の一般生命保険料と個人年金保険料は、それぞれ以下の速算表を用いて控除額を計算します。旧契約には介護医療保険料控除の区分はありません。
【旧契約の速算表】
- 支払った保険料が25,000円以下の場合:支払った保険料の全額
- 支払った保険料が25,000円超 50,000円以下の場合:支払った保険料 × 1/2 + 12,500円
- 支払った保険料が50,000円超 100,000円以下の場合:支払った保険料 × 1/4 + 25,000円
- 支払った保険料が100,000円超の場合:一律50,000円
それぞれの控除額の上限は、一般生命保険料控除が50,000円、個人年金保険料控除が50,000円です。
所得税の保険料控除額の合計上限額(旧契約のみの場合)
旧契約のみの場合、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除の合計で、100,000円が上限となります。
新契約と旧契約の両方がある場合
新契約と旧契約の両方がある場合、それぞれの区分(一般生命、個人年金)において、以下のいずれか有利な方を選択して控除額を計算できます。
- 新契約の計算方法で算出した控除額
- 旧契約の計算方法で算出した控除額
- 新契約と旧契約の両方の保険料がある場合、新契約の速算表で計算した金額と旧契約の速算表で計算した金額の合計額(ただし、合計の上限はそれぞれ40,000円です)
最終的な保険料控除額の合計上限は、一般生命保険料控除(新旧合算または有利選択)、介護医療保険料控除(新契約のみ)、個人年金保険料控除(新旧合算または有利選択)の合計で、120,000円が上限となります。
例:新契約の一般生命保険料4万円、旧契約の一般生命保険料8万円を支払った場合。
新契約の控除額:40,000円(上限)
旧契約の控除額:50,000円(上限)
新旧合算の計算(参考):新4万+旧8万 = 12万。新契約の速算表で12万だと4万。旧契約の速算表で12万だと5万。
この場合、旧契約の控除額50,000円を選択するのが有利です。
具体的な計算は少々複雑な場合があるため、保険会社から送付される「保険料控除証明書」に記載されている金額を確認し、その金額を元に計算するか、国税庁のホームページなどで提供されている計算ツールを利用すると便利です。
どこで、どのように申告するのか?
保険料控除は、年末調整または確定申告の際に申告します。
会社員の場合:年末調整
給与所得者(会社員、公務員など)の多くは、年末調整で保険料控除の申告を行います。
- 勤務先から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」を入手します。
- 加入している各保険会社から送付される「保険料控除証明書」を用意します。
- 申告書に、保険の種類、保険会社名、保険期間、支払った保険料の金額、「保険料控除証明書」に記載されている控除対象額などを正確に記入します。
- 計算した控除額を記入します。
- 記入した申告書と「保険料控除証明書」原本を勤務先に提出します。提出期限は通常10月下旬から11月頃です。
これにより、勤務先が所得税の計算を行い、控除が適用された後の税額で年末調整が完了します。
自営業者やフリーランス、または年末調整で申告し忘れた会社員の場合:確定申告
自営業者やフリーランスなど、年末調整の対象とならない方、または会社員でも年末調整で保険料控除の申告を忘れた方や、年の中途で退職して年末調整を受けていない方などは、ご自身で確定申告をする際に保険料控除を申告します。
- 確定申告書を用意します(税務署の窓口、国税庁ホームページからダウンロード、e-Taxソフトなどで入手)。
- 加入している各保険会社から送付される「保険料控除証明書」を用意します。
- 確定申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」の欄にある「生命保険料控除」の項目に記入します。
新契約と旧契約、それぞれの一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の支払保険料等の金額を記入し、控除額を計算して記入します。 - 「保険料控除証明書」を確定申告書に添付または提出時に提示します。e-Taxで申告する場合は、証明書の記載内容を入力し、証明書の提出を省略できる場合がありますが、税務署から提出を求められることがあります。
- 完成した確定申告書を、所轄の税務署に提出します。提出期間は通常、その年の翌年の2月16日から3月15日までです。e-Taxによるオンライン申告、郵送、税務署窓口への持参などの方法があります。
どこに書く?(申告書の該当箇所)
- 給与所得者の保険料控除申告書(年末調整用):
「生命保険料控除」の欄。ここに「新生命保険料」「旧生命保険料」「介護医療保険料」「新個人年金保険料」「旧個人年金保険料」の区分があり、それぞれの「支払保険料等の金額」や「控除額」を記入します。 - 所得税確定申告書 第一表:
右側の「所得から差し引かれる金額」の欄にある「生命保険料控除」の項目。「生命保険料控除」の右横にあるカッコ書きに、一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の各控除額の合計額を記入します。詳細な計算は、確定申告書第三表や、e-Taxソフトの入力画面で行います。
手続きに必要なもの
保険料控除の申告には、以下の書類が不可欠です。
- 保険料控除証明書
加入している各保険会社から毎年送付される書類です。その年の1月1日から12月31日までに支払った(または支払う予定の)保険料の金額や、新契約・旧契約の区分、契約内容が控除の要件を満たしているかなどが記載されています。通常、毎年10月頃に送付されます。この証明書がないと、原則として控除を受けることはできません。紛失した場合は、加入している保険会社に再発行を依頼してください。 - 年末調整の場合:給与所得者の保険料控除申告書
- 確定申告の場合:確定申告書、マイナンバー確認書類、本人確認書類、源泉徴収票(会社員の場合)など。
保険料控除は、税負担を軽減するための重要な制度です。ご自身が加入している保険契約が控除の対象となるか、「保険料控除証明書」が届いているかなどを確認し、忘れずに申告手続きを行いましょう。特に新旧契約が混在している場合や複数の保険会社と契約している場合は、計算や申告書の記入に注意が必要です。不明な点は、保険会社や税務署に確認することをお勧めします。