砂防指定地とは?

砂防指定地(さぼうしていち)とは、日本の
「砂防法」に基づき、

土砂災害(土石流、地すべり、山腹崩壊など)が発生する
危険性が高いと認められる渓流や山地の一部、
および下流の土砂災害を防止するため
砂防設備の設置や一定の行為規制を行う必要がある土地

として、国(国土交通大臣)または
都道府県知事によって指定されるエリアのことです。

この指定は、単に危険な場所を示すだけでなく、
その区域内での特定の行為を制限したり、
国や都道府県が砂防工事(砂防堰堤の設置、渓流の整備など)を
実施するための根拠となります。

なぜ砂防指定地が必要なのか?

砂防指定地制度が必要とされる理由は、
日本の国土が地形的に急峻であり、
地質が脆い箇所も多く、梅雨や台風、集中豪雨などにより
土砂災害が頻繁に発生しやすい環境にあるからです。

特に、森林の減少や開発などにより
山地が荒廃したり、渓流に不安定な土砂が堆積したりすると、
ひとたび大雨が降った際に、大量の土砂や岩石、流木が
一気に流れ下る土石流や、山腹が崩壊するなどの
甚大な被害を引き起こす可能性があります。

砂防指定地としてエリアを明確にすることで、

  1. 計画的な砂防対策の実施: 国や都道府県が予算を投入し、砂防堰堤などの施設を設置して土砂の流出を抑制したり、渓流を安定させたりする工事を効率的に行えます。
  2. 危険な行為の規制: 住民や事業者がその区域内で無秩序な開発や地形を変えるような行為を行うことを制限し、新たな土砂災害のリスクを発生させたり、既存のリスクを増大させたりすることを防ぎます。
  3. 住民への周知と啓発: 危険なエリアであることを広く知らせ、住民が避難計画などを立てる上で重要な情報を提供します。

これらの目的のために、砂防指定地制度は
土砂災害から人命や財産を守るための
重要な防災対策の一つとなっています。

砂防指定地はどこにある?確認方法は?

砂防指定地は、主に以下のような場所に設定されています。

  • 土石流が発生しやすい、勾配が急な渓流の上流部から下流部にかけての範囲
  • 山腹崩壊や地すべりが発生しやすい、不安定な斜面を持つ山地
  • これらの区域から流れ出した土砂が堆積する可能性がある下流の扇状地など

つまり、山間部や丘陵地の渓流沿いや急斜面、
あるいはそれらの下流側の平地にまで及ぶことがあります。
必ずしも山奥だけに限られるわけではありません。

ある土地が砂防指定地に含まれるかどうかの確認方法:

ある特定の土地が砂防指定地に含まれるかどうかを知りたい場合、
最も確実な方法は、その土地を管轄する
都道府県庁または市町村役場に問い合わせることです。

具体的な部署としては、

  • 都道府県庁: 土木部、建設部、砂防課、河川課、治水課など
  • 市町村役場: 建設課、土木課、防災課など

これらの部署では、砂防指定地の指定状況が記された
地図(指定図)などを管理しています。
窓口で場所を伝えて確認させてもらうことができます。

また、近年では多くの自治体が
防災関連の情報や各種ハザードマップを
インターネットの公式サイトで公開しています。
都道府県や市町村の公式サイトで「砂防指定地」「土砂災害警戒区域」などのキーワードで検索すると、
指定エリアの地図データが公開されている場合があります。
ただし、インターネット上の情報は必ずしも最新でなかったり、
詳細な境界線までは分かりにくかったりする場合があるため、
正確な情報を得るためには、やはり担当部署に直接問い合わせるのが最善です。

不動産取引の際には、重要事項説明書に
砂防指定地の情報が記載されることが義務付けられていますので、
不動産業者を通じて確認することも可能です。

砂防指定地内での行為制限とは?

砂防指定地内では、無秩序な開発や土地の改変が
新たな土砂災害を引き起こしたり、
既に設置されている砂防設備の効果を妨げたりする可能性があるため、
砂防法により特定の行為が制限されています。

具体的に制限される可能性のある行為は多岐にわたりますが、
主なものとしては以下の通りです。

  • 土地の掘削、盛土、切土など土地の形質変更
  • 竹木の伐採、土石や砂れきの採取
  • 工作物(建築物やその他の構造物)の新築、改築、増築
  • 水の貯留または放流
  • その他、砂防設備の機能を阻害したり、
    新たな土砂災害を引き起こす恐れのある行為

これらの行為を行う場合は、
原則として都道府県知事の許可が必要となります。
許可なく行為を行った場合や、
許可条件に違反した場合には、
中止命令や原状回復命令が出されたり、
罰則が科されたりすることがあります。

重要なのは、これらの制限はあくまで土砂災害防止のためであり、
絶対に何もできないということではありません。
安全性が確認され、適切な対策を講じることを条件に
許可が得られる場合があります。

砂防指定地内での許可申請について

砂防指定地内で制限されている行為を行いたい場合、
原則として都道府県知事(または権限移譲された市町村長)の
許可を得るための申請手続きが必要です。

一般的な申請の流れは以下のようになります。

  1. 事前相談: 行いたい行為が砂防指定地内の制限に該当するか、また許可の可能性があるかなどを、事前に担当部署(都道府県庁の砂防課など)に相談します。この段階で、必要な書類や許可の見込みについてアドバイスを受けることができます。
  2. 申請書類の準備: 申請書に必要事項を記入し、行為を行う場所の案内図、公図、土地登記事項証明書、計画内容を示す図面(平面図、断面図、構造図など)、構造計算書、砂防設備への影響検討資料、安全対策に関する資料など、多くの添付書類を準備します。必要書類は行為の内容や自治体によって異なるため、事前相談で確認することが重要です。
  3. 申請書の提出: 準備した書類を管轄の都道府県庁または市町村役場の担当部署に提出します。
  4. 審査: 提出された申請書類に基づき、計画内容が砂防設備の機能に支障をきたさないか、新たな土砂災害を誘発する恐れがないか、適切な安全対策が講じられているかなどが審査されます。必要に応じて、現地調査が行われたり、申請者に追加の資料提出や計画の修正が求められたりします。
  5. 許可または不許可の決定: 審査の結果、基準を満たしていれば許可が下り、許可証が交付されます。基準を満たさない場合や、土砂災害防止上問題があると判断された場合は不許可となります。

許可申請には、専門的な知識が必要となる場合が多く、
特に構造物の設置や大規模な土地の形質変更を伴う場合は、
砂防や土木の専門家(建設コンサルタント、土地家屋調査士、設計事務所など)に
相談したり、手続きを代行してもらったりすることも一般的です。
審査には一定の期間を要するため、
計画は余裕を持って進める必要があります。

特に注意すべき行為:建築や土地の形質変更

砂防指定地内での制限行為の中でも、
特に注意が必要で許可のハードルが高い傾向にあるのが、
建築物(家やビルなど)の新築・改築・増築や、
大規模な土地の掘削・盛土・切土といった形質変更です。

建築行為

砂防指定地は、土石流や山腹崩壊といった
強力な力を持つ土砂が流れてくる可能性があるエリアです。
このような場所に建物を建てることは、
その建物自体が土砂に破壊される危険があるだけでなく、
建物の存在が土砂の流れを変えたり、
上流からの土砂をせき止めたりすることで、
周囲に新たな危険をもたらす可能性も考えられます。

そのため、建築許可を得るためには、

  • 建物の構造が土砂の衝撃に耐えられるように設計されているか
  • 基礎が深く、地盤が安定しているか
  • 建物が土砂の流れを阻害しない配置になっているか
  • 避難経路が確保されているか
  • 周辺の砂防設備(砂防堰堤など)の機能に影響を与えないか

などが厳しく審査されます。
場合によっては、土砂を安全に流下させるための
流路工を設置したり、建物の前面に
土砂の到達を防ぐ擁壁を設置したりするなど、
特別な安全対策を講じることが許可の条件となることがあります。

土地の形質変更(掘削、盛土、切土)

土地の形質変更は、地面の安定性に直接影響を与えます。

  • 切土: 斜面を切り崩すことで、残った斜面が不安定になる可能性があります。
  • 盛土: 土を盛り上げることで、その重みで地盤沈下を起こしたり、盛土自体が崩れたりする可能性があります。
  • 掘削: 大きな穴を掘ることで、地下水の流れが変わったり、周辺の地盤が緩んだりする可能性があります。

砂防指定地内では、これらの行為が既存の不安定要素を助長し、
土砂災害の引き金となる恐れがあるため、厳しく制限されます。

許可を得るためには、

  • 計画された切土・盛土が斜面の安定計算に基づいて適切に行われるか
  • 擁壁などの補強構造物が適切に設計・施工されるか
  • 排水施設が整備され、雨水などが適切に処理されるか
  • 周辺の自然な地形や水の流れを大きく変えないか

などが審査されます。
特に大規模な形質変更は、広範囲に影響を及ぼす可能性があるため、
より詳細な検討と厳重な安全対策が求められます。

砂防指定地の管理主体は?

砂防指定地の指定は、砂防法に基づき
主務大臣(国土交通大臣)または
都道府県知事によって行われます。

そして、砂防指定地内の管理や、
砂防設備の設置・維持管理といった砂防工事の実施は、
基本的に都道府県が行います。

ただし、国が直轄で管理する河川の流域など、
特に重要度の高い箇所については、
国(国土交通省)が直接管理や工事を
実施する場合もあります。

市町村は直接的な管理主体ではありませんが、
砂防指定地の情報を住民に周知したり、
避難体制を整備したりするなど、
地域の防災において重要な役割を担っています。

許可申請の窓口は都道府県であることが多いですが、
一部の権限が市町村に移譲されている場合もあります。

また、砂防指定地内の土地が個人の所有地であっても、
公共の安全のため、砂防法の規制が適用されます。
土地所有者や占有者にも、許可を得ずに制限行為を行わないなどの
遵守義務があります。

砂防指定地の理解がなぜ重要か

砂防指定地に関する正しい理解は、
そのエリアに土地を所有している方、
居住している方、あるいは事業を計画している方にとって、
非常に重要です。

  • 安全確保: まず第一に、自分が土砂災害の危険性があるエリアにいることを認識し、災害時の避難行動計画などに役立てることができます。
  • 法令遵守: 砂防法に基づく制限行為を行う際に、無許可での行為が違法行為となり、罰則や是正措置の対象となることを避けることができます。
  • 資産価値や利用への影響: 指定されていることで、土地の利用方法に制限がかかったり、建築や開発に費用や手間がかかったりするため、不動産の取得や活用を検討する上で、指定状況の確認は不可欠です。
  • 計画の遅延防止: 事業や建築計画を立てる際に、事前に指定状況と必要な手続きを把握しておくことで、計画の大幅な遅延を防ぐことができます。

砂防指定地は、過去の災害教訓や科学的な調査に基づいて
指定されている、まさに「危険箇所」であることを意味します。
この指定がある場所での活動は、安全確保と法的な側面の両方から
慎重に進める必要があります。

砂防指定地

By admin

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