療育手帳をお持ちのご本人またはその方を扶養している方は、所得税や住民税において「障害者控除」という税の軽減措置を受けることができます。これは、障害があることによって生じる特別な支出などを考慮し、税負担を軽くするための制度です。
障害者控除とは?療育手帳との関係
障害者控除は、納税者ご自身または控除対象配偶者、扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に受けられる所得控除の一つです。所得控除とは、所得の合計額から一定の金額を差し引くことで、税金がかかる対象となる「課税所得」を減らす仕組みです。
療育手帳は、知的障害のある方に交付される手帳で、この手帳をお持ちの方は、所得税法上の「障害者」として認定され、障害者控除の対象となります。手帳に記載されている障害の程度(等級)によって、受けられる控除の種類や金額が変わります。
控除の対象となるのは誰?
障害者控除を受けることができるのは、主に以下の二つのケースです。
- 納税者ご自身が療育手帳をお持ちの場合。
- 納税者と生計を一つにする配偶者や扶養親族の中に、療育手帳をお持ちの方がいる場合。
例えば、お子さんが療育手帳をお持ちで、親御さんがそのお子さんを扶養している場合、親御さんが自身の所得からお子さんの分の障害者控除を受けることができます。ただし、配偶者控除や扶養控除の対象となっている必要があります。
療育手帳による障害者控除の種類と金額
療育手帳の場合、手帳に記載された障害の程度(等級)に応じて、以下のいずれかの障害者控除の対象となります。
一般の障害者控除
「特別障害者」に該当しない障害者の方が対象です。多くの自治体で、療育手帳の「中度」または「軽度」と判定された方がこの区分に該当します。
控除額:
- 所得税:27万円
- 住民税:26万円
特別障害者控除
障害の程度が特に重い方が対象です。多くの自治体で、療育手帳の「最重度」または「重度」と判定された方がこの区分に該当します。
控除額:
- 所得税:40万円
- 住民税:30万円
同居特別障害者控除
特別障害者である控除対象配偶者または扶養親族(年齢16歳以上)の方と常に同居している場合に、特別障害者控除に上乗せして受けられる控除です。
控除額:
- 所得税:35万円
- 住民税:23万円
※同居特別障害者控除を受ける場合、特別障害者控除(所得税40万円、住民税30万円)と合わせて控除されます。したがって、所得税の控除額は合計で75万円(40万円+35万円)、住民税の控除額は合計で53万円(30万円+23万円)となります。
療育手帳の等級と税法上の区分(例)
・重度(マルA、Aなど):特別障害者
・中度・軽度(Bなど):一般の障害者※等級の呼称や区分けの基準は自治体によって多少異なりますが、税法上の特別障害者か一般の障害者かの判定基準は全国共通です。ご自身の療育手帳がどちらに該当するか不明な場合は、お住まいの市町村役場の障害福祉担当課や税務署にご確認ください。
控除を受けるための手続き
障害者控除を受けるためには、ご自身で申告を行う必要があります。申告方法には、主に「年末調整」と「確定申告」の二つがあります。
年末調整で申告する場合
会社にお勤めの方が対象です。年末調整の際に、会社から配布される「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類に、療育手帳をお持ちの方に関する必要事項(氏名、マイナンバー、生年月日、障害の区分など)を記載して勤務先に提出します。
これにより、会社が年末調整の計算を行う際に障害者控除が適用され、所得税が精算されます。住民税についても、会社から市町村に提出される給与支払報告書を通じて自動的に反映されます。
確定申告で申告する場合
自営業の方、年金受給者で源泉徴収されていない方、または年末調整で障害者控除の申告を忘れてしまった会社員の方が対象です。
確定申告期間(通常、毎年2月16日から3月15日)に、以下の書類等を持参して手続きを行います。
- 確定申告書
- 源泉徴収票(会社員や年金受給者の場合)
- 療育手帳(原本または写し)
- マイナンバーカードまたは通知カードと身元確認書類
- 印鑑(必要な場合)
- その他、医療費控除など他の控除を受ける場合は関連書類
確定申告書にある障害者控除の欄に必要事項を記入し、所轄の税務署に提出します。
どこで手続きを行う?
手続きを行う場所は、申告方法によって異なります。
- 年末調整: 勤務先の会社
- 確定申告:
- 管轄の税務署(直接持参、郵送)
- 国税庁のe-Taxシステム(インターネットで申告)
- 確定申告期間中に開設される市町村役場の確定申告会場
e-Taxを利用すれば、自宅からインターネット経由で申告でき、添付書類の提出を省略できる場合があります。税務署の窓口や確定申告会場では、職員に相談しながら手続きを進めることも可能です。
必要な書類は何?
障害者控除を受けるための最も重要な証明書類は、療育手帳です。年末調整の場合は、通常、申告書の提出のみで手帳の提示は求められませんが、税務署から提出を求められる場合もありますので、すぐに提示できるよう準備しておきましょう。確定申告の場合は、申告書提出時に療育手帳の写しの添付または提示が必要となるのが一般的です。
紛失や盗難などで手帳がない場合は、手帳を交付した自治体の窓口で「障害者控除対象者認定書」を発行してもらうことで、療育手帳の代わりとして使用できる場合があります。手続きを始める前に、利用したい申告方法(年末調整か確定申告か)に応じて、勤務先または税務署に確認しておくとスムーズです。
控除を受けると税金はいくら減る?
障害者控除の金額(例:一般27万円、特別40万円)がそのまま税金から差し引かれるわけではありません。これらの金額は、所得の合計額から差し引かれる「所得控除額」です。
税金の減少額は、「控除額 × 納税者の所得税率(または住民税率)」で計算されます。
例:所得税率が10%の方が、療育手帳(中度・一般の障害者)による障害者控除27万円を受けた場合
税金の減少額 = 27万円 × 10% = 2万7千円
所得税率や住民税率は、所得金額などによって異なります。所得が高い方ほど税率も高くなる傾向があるため、同じ控除額でも税金の軽減額は大きくなります。
障害者控除を適用することで、所得税だけでなく、住民税についても同様に控除が適用され、税負担が軽減されます。
まとめ
療育手帳をお持ちであることは、所得税・住民税の障害者控除を受けるための重要な要件です。この控除を活用することで、ご本人やご家族の税負担を軽減することができます。
控除の種類(一般、特別、同居特別)や金額は、療育手帳の等級によって決まります。会社員の方は年末調整で、それ以外の方は確定申告で手続きを行いましょう。手続きには療育手帳が必要となりますので、大切に保管してください。
適切な手続きを行うことで、受けられる税の軽減措置をしっかりと活用しましょう。ご不明な点があれば、勤務先の経理担当者や最寄りの税務署、または市町村役場の税務課に相談することをお勧めします。