生命保険控除とは? – 保険料で税金が安くなる仕組み

生命保険控除(正式名称:生命保険料控除)は、支払った生命保険、介護医療保険、個人年金保険の保険料に応じて、その年の所得税や住民税の負担を軽減できる制度です。これにより、納める税金の基となる「所得」から一定額が差し引かれ、結果として税額が低くなります。
この控除は、生命保険への加入を促進し、個人の自助努力による保障確保を支援する目的があります。

控除の対象となる保険の種類と分類

生命保険控除の対象となる保険は、主に以下の3つのカテゴリーに分けられます。それぞれのカテゴリーで控除額が計算されます。

  • 一般生命保険料控除

    死亡や高度障害、生存や生死混合など、人の生死に関する保険が対象です。例えば、終身保険、定期保険、養老保険、こども保険(学資保険)などがこれに該当します。
    特約部分も、主契約が一般生命保険料控除の対象であれば含まれることが多いです。

  • 介護医療保険料控除

    入院や通院、手術、あるいは特定の疾病に対する保障、介護に関する保障を目的とした保険が対象です。医療保険、がん保険、介護保険などがこれに該当します。
    このカテゴリーは、平成24年1月1日以降に締結された契約にのみ適用される新しい区分です。

  • 個人年金保険料控除

    個人年金保険のうち、以下の4つの要件をすべて満たす「税制適格特約」が付加された契約が対象です。

    1. 年金受取人が契約者またはその配偶者であること
    2. 年金受取人が被保険者と同一であること
    3. 保険料の払込期間が10年以上であること
    4. 年金の受取開始が満60歳以降であり、かつ、年金受取期間が10年以上であること

    これらの要件を満たさない個人年金保険は、一般生命保険料控除の対象となる場合もあります。

ご自身の加入している保険がどのカテゴリーに該当するかは、保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」で確認できます。

控除される金額はいくら? – 新制度と旧制度

生命保険料控除の計算方法には、「新制度」と「旧制度」の2種類があります。これは、契約を締結した時期によって適用される制度が異なるためです。

  • 新制度(平成24年1月1日以後に締結した保険契約等)

    「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」の3つのカテゴリーそれぞれについて控除額を計算します。

    【所得税の控除額(各カテゴリーごと)】

    • 年間の支払保険料等が2万円以下の場合:支払保険料等の全額
    • 年間の支払保険料等が2万円超4万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 1万円
    • 年間の支払保険料等が4万円超8万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 2万円
    • 年間の支払保険料等が8万円超の場合:一律4万円

    つまり、各カテゴリーごとの所得税の控除額の最大は4万円です。

    【住民税の控除額(各カテゴリーごと)】

    • 年間の支払保険料等が1.2万円以下の場合:支払保険料等の全額
    • 年間の支払保険料等が1.2万円超3.2万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 0.6万円
    • 年間の支払保険料等が3.2万円超5.6万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 1.4万円
    • 年間の支払保険料等が5.6万円超の場合:一律2.8万円

    各カテゴリーごとの住民税の控除額の最大は2.8万円です。

    【控除額の合計】

    所得税:上記3つのカテゴリーの控除額の合計額(最高12万円)
    住民税:上記3つのカテゴリーの控除額の合計額(最高7万円)

  • 旧制度(平成23年12月31日以前に締結した保険契約等)

    「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」の2つのカテゴリーについて控除額を計算します。(介護医療保険料控除はありません)

    【所得税の控除額(各カテゴリーごと)】

    • 年間の支払保険料等が2.5万円以下の場合:支払保険料等の全額
    • 年間の支払保険料等が2.5万円超5万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 1.25万円
    • 年間の支払保険料等が5万円超10万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 2.5万円
    • 年間の支払保険料等が10万円超の場合:一律5万円

    つまり、各カテゴリーごとの所得税の控除額の最大は5万円です。

    【住民税の控除額(各カテゴリーごと)】

    • 年間の支払保険料等が1.5万円以下の場合:支払保険料等の全額
    • 年間の支払保険料等が1.5万円超4万円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 0.75万円
    • 年間の支払保険料等が4万円超7万円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 1.75万円
    • 年間の支払保険料等が7万円超の場合:一律3.5万円

    各カテゴリーごとの住民税の控除額の最大は3.5万円です。

    【控除額の合計】

    所得税:上記2つのカテゴリーの控除額の合計額(最高10万円)
    住民税:上記2つのカテゴリーの控除額の合計額(最高7万円)

【新旧両制度の契約がある場合】

新制度と旧制度、両方の契約がある場合、控除額は以下の方法で計算されます。

  • 同じカテゴリーに新旧両方の契約がある場合:

    以下のいずれか有利な方を選べます。

    1. 新制度の計算方法で算出した控除額(最高4万円)
    2. 旧制度の計算方法で算出した控除額(最高5万円)

    ただし、新旧両制度の契約がある場合でも、そのカテゴリーの控除額として申告できるのは、新制度の上限である4万円(所得税の場合)または2.8万円(住民税の場合)が原則です。例外的に旧制度の計算額の方が高い場合は、旧制度の計算額(最高5万円/3.5万円)を選択できます。

    例えば、一般生命保険料控除で旧制度契約のみで年間8万円支払っていれば控除額は5万円、新制度契約のみで年間8万円支払っていれば控除額は4万円です。もし旧制度契約で年間8万円、新制度契約で年間4万円支払っている場合、旧制度分で計算した控除額(5万円)と新制度分で計算した控除額(4万円)を合算すると9万円ですが、そのカテゴリーの控除額としては新制度の上限である4万円が上限となります。ただし、旧制度分のみで計算した控除額(5万円)の方が高いため、有利な旧制度計算の5万円を選択して申告できます。

  • 異なるカテゴリーに新旧両方の契約がある場合:

    それぞれのカテゴリーにつき、上記の新旧それぞれの計算方法で算出した控除額を合算します。

    例えば、旧制度の一般生命保険料控除契約と、新制度の介護医療保険料控除契約、新制度の個人年金保険料控除契約がある場合、それぞれの控除額を計算し、合計します。
    この場合の所得税の控除額合計の上限は12万円(新制度の合計上限)となります。

生命保険料控除証明書には、多くの場合、新制度と旧制度それぞれで計算した場合の控除額目安が記載されています。これを参考にすると計算が容易です。

どこで、どうやって控除を受ける? – 年末調整と確定申告

生命保険控除を受けるためには、「生命保険料控除証明書」を提出し、税金の申告手続きを行う必要があります。手続き方法は、給与所得者(会社員など)か、それ以外(自営業者など)かによって異なります。

会社員の場合 – 年末調整で手続き

会社にお勤めの方は、通常、年末調整で生命保険控除の手続きを行います。

  1. 「給与所得者の保険料控除申告書」の入手
    勤務先から配布される年末調整の書類一式の中に含まれています。
  2. 必要事項の記入
    申告書に、加入している保険会社名、保険の種類、契約期間、年間の支払保険料、控除証明書に記載されている控除額見込額などを記入します。
    新制度と旧制度、各カテゴリーごとに分けて記入する欄があります。
  3. 生命保険料控除証明書の添付
    保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」の原本を、申告書の裏面などに貼り付けます。
  4. 勤務先への提出
    必要書類をすべて揃え、勤務先が指定する期日(通常11月~12月頃)までに提出します。

提出された申告書と証明書に基づき、勤務先が税金の計算を行い、12月の給与などで税金の精算(還付または徴収)が行われます。

自営業者やその他の場合 – 確定申告で手続き

自営業者、フリーランス、年金受給者などで確定申告を行う必要がある方は、ご自身で確定申告書に生命保険控除の内容を記載して提出します。

  1. 確定申告書の入手
    税務署の窓口、国税庁のホームページ、または税理士などから入手します。
    国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」を利用すると、画面の案内に従って入力するだけで書類を作成でき、そのままe-Taxで提出することも可能です。
  2. 申告書の記入
    確定申告書の「第二表」にある「生命保険料控除」の欄に、保険の種類(一般、介護医療、個人年金)、新旧の区分、支払保険料等の合計額、控除額などを記入します。
    計算した控除額を「第一表」の所定の欄にも転記します。
  3. 生命保険料控除証明書の添付または提示
    e-Taxで申告する場合は、証明書の記載内容を入力し、証明書そのものの提出は省略できますが、税務署から提出や提示を求められる場合がありますので、申告期限から5年間は保管しておく必要があります。
    書面で提出する場合は、証明書の原本を申告書に添付して提出します。
  4. 税務署への提出
    作成した確定申告書を、所轄の税務署に提出します(郵送、持参、e-Tax)。
    提出期限は原則として翌年の3月15日です。

確定申告によって、年間の所得税および住民税が確定し、必要に応じて税金の納付または還付が行われます。

控除に必要な書類 – 生命保険料控除証明書

生命保険控除を受ける上で最も重要な書類が「生命保険料控除証明書」です。

  • 送付時期
    通常、毎年10月頃に保険会社から郵送されてきます。その年の1月から9月までに払い込んだ保険料と、1月から12月までの1年間に払い込む予定の合計保険料、そしてそれに基づいて計算される控除額見込額などが記載されています。
  • 記載内容の確認
    証明書には、契約者の氏名、保険の種類(一般、介護医療、個人年金)、新制度または旧制度の区分、その年に支払った(または支払う予定の)保険料の金額、そして計算された控除額が記載されています。
    この記載内容が、申告書に記入する際の元情報となります。
  • 紛失した場合
    もし証明書を紛失してしまった場合は、契約している保険会社に連絡すれば再発行してもらえます。年末調整や確定申告の期限に間に合うように、早めに手続きを行いましょう。

この証明書がないと控除を受けることができませんので、大切に保管してください。

なぜ生命保険控除を受けるべき? – 税負担の軽減メリット

生命保険控除を受けることの一番の理由は、税金、つまり所得税と住民税が安くなることです。

  • 所得税の軽減
    控除された金額分だけ課税される所得が減るため、その減った所得金額に対してかかる所得税率分の税金が軽減されます。例えば、所得税率が10%の人なら、控除額10万円で税金が1万円安くなります。
  • 住民税の軽減
    住民税の計算でも生命保険控除が適用され、同様に税負担が軽減されます。住民税の税率は一般的に10%ですので、こちらも控除額に応じて税金が安くなります。ただし、住民税の控除には所得税とは異なる上限額(合計7万円)があります。

支払っている保険料が一定額を超えているにも関わらずこの控除を申告しないのは、税金を多く払いすぎていることになります。手続きはそれほど難しくないので、必ず申告して税負担を軽減しましょう。

申告にあたっての注意点

最後に、生命保険控除を申告する際のいくつかの注意点です。

  • 契約者と保険料負担者:
    生命保険控除は、保険料を実際に負担した人が受けられます。例えば、夫名義の保険でも、妻が家計から保険料を支払っている場合は、妻が控除を受けることができます。ただし、申告する際はその事実を証明できるようにしておくことが望ましいです。
  • 証明書の確認:
    送られてきた控除証明書が、ご自身の契約内容(保険の種類、新旧区分など)と合っているか確認しましょう。
  • 提出期限の遵守:
    年末調整や確定申告には期限があります。期限を過ぎると、原則としてその年の控除を受けられなくなるため、余裕を持って準備しましょう。年末調整に間に合わなかった場合は、ご自身で確定申告(還付申告)をすることで控除を受けられます。還付申告は、対象となる年の翌年1月1日から5年間提出可能です。
  • 住民税の控除額:
    所得税と住民税では控除額の上限が異なります。所得税で最大限の控除を受けても、住民税では控除額が少なくなる場合があります。

これらの点を踏まえ、適切に申告を行いましょう。

まとめ

生命保険控除は、支払った保険料の一部を所得から差し引くことで、所得税と住民税の負担を軽減できる、国民にとって有利な制度です。
一般生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除の3つのカテゴリーがあり、契約時期によって新制度(最高12万円控除)と旧制度(最高10万円控除)の計算方法が適用されます。
会社員は年末調整で、自営業者などは確定申告で手続きを行い、その際には保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」が必須となります。
この控除を適切に利用することで、手取り収入を増やす効果が期待できますので、忘れずに申告するようにしましょう。

生命保険控除

By admin

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