特定最低賃金とは？地域別最低賃金との違い
特定最低賃金とは、地域別最低賃金とは別に、特定の産業について設定されている最低賃金です。特定の産業に働く労働者の賃金の改善を図ることを目的としています。これは、その産業の事業を営む使用者とその事業場で働く労働者に適用されます。
具体的に何ですか？
特定の産業とは、例えば鉄鋼業、造船業、機械工業、電子部品・デバイス・電子回路、繊維工業、百貨店・総合スーパーなど、特定の業種やそれに付随する特定の業務を指します。これらの産業においては、その産業の特性や賃金水準を考慮して、地域別最低賃金よりも高い金額の最低賃金が設定されている場合があります。
地域別最低賃金との違い
最も大きな違いは、適用される「範囲」です。
地域別最低賃金：各都道府県内のすべての事業場及びそこで働く労働者に対して適用されます。これは、働く地域によって金額が異なります。
特定最低賃金：特定の「産業」に対して、その産業を営む事業場で働く労働者に適用されます。適用されるかどうかは、働く地域ではなく、主に「どのような仕事（産業）」をしているかによります。ただし、特定最低賃金も、設定されている地域（通常は都道府県単位）の範囲内で適用されます。
また、金額については、特定最低賃金は基本的にその地域の地域別最低賃金よりも高い水準に設定されています。
どのような産業や職種に適用されるのか
特定最低賃金は、全国一律にすべての特定産業に設定されているわけではなく、各都道府県で「必要と認められる特定の産業」に対して設定されています。そのため、同じ産業であっても、特定最低賃金が設定されている都道府県と設定されていない都道府県があります。
特定最低賃金の対象となる産業・職種の例
以下は、特定最低賃金が設定されることのある代表的な産業の例ですが、これは網羅的なリストではなく、設定の有無や具体的な産業の範囲は都道府県によって異なります。
- 鉄鋼業
- 非鉄金属製造業
- 金属製品製造業
- はん用機械器具製造業
- 生産用機械器具製造業
- 業務用機械器具製造業
- 電子部品・デバイス・電子回路製造業
- 電気機械器具製造業
- 情報通信機械器具製造業
- 輸送用機械器具製造業（自動車、船舶など）
- 繊維工業
- 衣服、その他の繊維製品製造業
- 化学工業
- ガラス・同製品製造業
- セメント・同製品製造業
- 百貨店、総合スーパー
- 自動車小売業
- 各種商品卸売業
これらの産業内であっても、特定の職種や業務内容に対してのみ適用される場合や、一部の小規模事業場には適用されない除外規定がある場合もあります。詳細な適用範囲は、各都道府県労働局が公示する内容を確認する必要があります。
なぜ特定の産業・職種に設定されるのか
特定最低賃金が特定の産業や職種に設定される背景には、いくつかの理由があります。
設定の背景と目的
主な目的は、該当する産業の労働者の賃金水準を維持・向上させることです。これは、以下のような状況を考慮して行われます。
- 産業の賃金水準が高い場合：その産業全体の賃金水準が他の産業に比べて高い傾向にある場合、その水準に見合った最低賃金を保証するため。
- 特定の技術や技能が必要な場合：専門的な知識や技術が求められる職種において、その価値を賃金に反映させるため。
- 労働組合と使用者団体の合意：当該産業における労働組合と使用者団体の間の協議や合意に基づいて設定される場合が多いです。これにより、産業全体の健全な発展と労働条件の安定を図る側面があります。
- 不当な競争の防止：特定の産業内で、賃金を不当に引き下げることによる競争を防ぎ、適正な競争環境を保つため。
このように、特定最低賃金は、単に地域全体の最低賃金を底上げするだけでなく、産業ごとの特殊性や実情に即した賃金設定を行うための制度と言えます。
特定最低賃金の金額：いくら？どう決まる？
特定最低賃金の金額は、地域別最低賃金と同様に「時間額」で定められています。
金額の決定方法
特定最低賃金の金額は、その産業の実情を踏まえ、都道府県の賃金審議会で専門家、労働者代表、使用者代表が議論を行い、審議・答申を経て、最終的に都道府県労働局長によって決定・公示されます。地域別最低賃金の審議プロセスとは別に、または連動して行われることがあります。産業ごとの賃金データや経済状況、地域別最低賃金の動向などが考慮されます。
金額の更新
特定最低賃金も、社会経済情勢の変化に合わせて、原則として毎年見直されます。見直しの時期は地域別最低賃金と同時期の場合もあれば、異なる場合もあります。最新の金額は、都道府県労働局から公示されます。
注意点として、特定最低賃金は特定の産業に対して設定されるため、同じ都道府県内であっても、産業が異なれば適用される特定最低賃金の金額も異なります。また、同じ産業であっても、都道府県が異なれば金額も異なります。
特定最低賃金の適用対象と優先関係
誰に適用されるのか
特定最低賃金は、指定された都道府県内の、特定最低賃金が設定されている「特定の産業」に属する事業場で働くすべての労働者に適用されます。正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの雇用形態に関わらず適用されます。
ただし、特定の例外規定がある場合があります。例えば、精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者、試の使用期間中の者、認定職業訓練受講者、軽易な業務に従事する者などについては、都道府県労働局長の許可を得ることを条件に、特定最低賃金の減額特例が認められる場合があります。しかし、この減額特例が認められるケースは限定的であり、手続きも必要です。
地域別最低賃金との優先関係
ある労働者に対して、地域別最低賃金と特定最低賃金の「両方」が適用される場合、どちらの最低賃金が優先されるのでしょうか。
重要な原則：金額の高い方が優先されます。
例えば、あなたの勤務地がある都道府県の地域別最低賃金が時間額1,000円で、かつあなたが働く産業に特定最低賃金が設定されており、その金額が時間額1,050円だった場合、あなたに適用される最低賃金は高い方の1,050円となります。
もし、特定最低賃金が980円だった場合は、地域別最低賃金の1,000円の方が高いため、1,000円が適用されます。
したがって、自分の働く事業場が特定の産業に該当し、特定最低賃金が設定されている地域にある場合は、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方を確認し、金額の高い方が自身の最低賃金となる、と理解しておく必要があります。
自身の特定最低賃金を確認する方法
自分が働いている産業に特定最低賃金が設定されているか、またその金額はいくらかを知ることは、自身の労働条件を確認する上で非常に重要です。確認方法はいくつかあります。
情報源
最も確実で最新の情報を得るためには、以下の公的な情報源を参照してください。
- 厚生労働省のウェブサイト：厚生労働省のウェブサイトには、全国の地域別最低賃金と特定最低賃金の一覧が掲載されています。「最低賃金特設サイト」などで検索すると見つかります。都道府県別や産業別に情報が整理されています。
- 都道府県労働局のウェブサイト：各都道府県労働局のウェブサイトでも、管轄地域の地域別最低賃金と特定最低賃金の情報が詳しく掲載されています。自身の勤務地がある都道府県の労働局ウェブサイトを確認するのが最も直接的です。
- 労働基準監督署：最寄りの労働基準監督署に問い合わせることもできます。窓口や電話で、特定の産業や地域における最低賃金について確認できます。
- 事業場の就業規則や労働契約：雇用契約書や就業規則に、適用される最低賃金や賃金に関する規定が記載されている場合もありますが、必ずしも最新の情報が反映されているとは限らないため、公的な情報源との照合が推奨されます。
確認のステップ
自身の特定最低賃金を確認するには、以下のステップで進めると良いでしょう。
- まず、自分が働いている「都道府県」を確認します。
- 次に、自分が従事している業務が、特定の産業（例：鉄鋼業、機械工業、百貨店など）に該当するか確認します。事業場の主な事業内容や、自分の所属部署の業務内容が参考になります。
- 厚生労働省または該当する都道府県労働局のウェブサイトで、「特定最低賃金」の一覧を探します。
- 一覧の中から、自分の勤務地がある都道府県の、自分の働いている産業に該当する特定最低賃金が設定されているかを確認します。
- 設定されている場合は、その金額を確認します。
- 同時に、その都道府県の地域別最低賃金の金額も確認します。
- 特定最低賃金の金額と地域別最低賃金の金額を比較し、高い方の金額が、あなたに適用される最低賃金となります。
もし、自分の産業が一覧にない場合、または特定最低賃金が設定されていない場合は、その地域で働くすべての労働者に適用される地域別最低賃金が適用されることになります。
遵守の重要性
使用者には、特定最低賃金（または地域別最低賃金のうち高い方）以上の賃金を支払う義務があります。これに違反した場合、労働基準法に基づき罰則の対象となり得ます。また、労働者は、特定最低賃金に満たない賃金しか支払われていなかった場合、使用者に対して不足分の賃金（差額）を請求することができます。
自身の賃金が最低賃金（地域別または特定の高い方）を下回っている可能性があると感じた場合は、上記の確認方法で自身の最低賃金を確認し、必要であれば事業場や労働基準監督署に相談することが重要です。
