特定健康診査、通称「特定健診」は、日本において生活習慣病の予防・早期発見を目的として行われる健康診査です。特に、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目し、その予防・改善を通じて、糖尿病や高血圧症、脂質異常症といった生活習慣病の発症や重症化を防ぐことを目指しています。
特定健康診査とは?
特定健康診査は、平成20年度からスタートした医療制度改革の一環として導入されました。これは、高齢化が進む中で増大する医療費、特に生活習慣病関連の医療費を抑制するために重要な役割を担っています。健診を受けることで、自らの健康状態、特に生活習慣病のリスクを把握し、必要に応じて適切な保健指導を受ける機会が得られます。
対象となるのはどんな人?
- 年齢:当該年度中に40歳から74歳になる方が対象です。
- 加入している医療保険:
- 国民健康保険
- 職場の健康保険(健康保険組合、共済組合、船員保険など)の被扶養者(ご家族)
- 任意継続被保険者
ただし、職場の健康保険の被保険者(ご本人)は、通常、勤務先での健康診断(いわゆる職域健診)が行われるため、特定健診の対象外となることが一般的です。また、75歳以上の後期高齢者医療制度の被保険者の方々は、特定健診とは別の健康診査を受けることになります。
なぜ特定健康診査を受ける必要があるのか?
最も重要な理由は、生活習慣病を予防し、将来の健康リスクを減らすためです。
- 早期発見:生活習慣病は初期段階では自覚症状がほとんどないことが多く、気づかないうちに進行してしまいます。特定健診によって、まだ病気として診断されていなくても、そのリスクが高い状態(メタボリックシンドローム予備群など)を早期に発見できます。
- 重症化予防:メタボリックシンドロームを放置すると、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中、慢性腎臓病などの重大な病気につながるリスクが非常に高まります。特定健診を受け、リスクを把握し、その後の保健指導で生活習慣を改善することで、これらの病気を未然に防いだり、発症を遅らせたりすることが期待できます。
- 医療費抑制:個人の健康維持は、結果的に社会全体の医療費負担を軽減することにもつながります。
特定健診は義務ではありませんが、自身の健康寿命を延ばし、より健康的な生活を送る上で非常に有用な機会です。
どこで特定健康診査を受けられる?
特定健康診査は、お住まいの市区町村や加入している医療保険の種類によって、様々な場所で受けることができます。
- 身近な医療機関(病院やクリニック):多くの医療機関が特定健診を実施しています。かかりつけ医がいる場合は相談してみるのも良いでしょう。
- 集団健診:市区町村や健康保険組合が契約した会場(公民館、健診センターなど)で、特定の日程にまとめて実施される形式です。
- 健診専門機関:健康診断を専門に行っている施設でも受診可能です。
具体的な実施場所については、お住まいの市区町村からの案内や、加入している健康保険組合・協会けんぽからの通知に記載されています。多くの場合、提携している医療機関リストや集団健診の日程が示されています。不明な場合は、保険証に記載されている保険者(健康保険組合など)またはお住まいの市区町村の担当窓口に問い合わせてみましょう。予約が必要な場合がほとんどです。
特定健康診査の費用はいくら?
特定健康診査の費用は、加入している医療保険の種類や、お住まいの市区町村の制度によって異なりますが、基本的に個人の負担は少額、あるいは無料となる場合が多いです。
- 特定健診にかかる費用の大部分は、加入している健康保険組合や市区町村(国民健康保険の場合)が負担します。
- 自己負担額は、無料の場合もあれば、数百円~数千円程度の場合もあります。
- 費用に関する詳細な情報は、加入している健康保険組合や市区町村から送付される特定健診の案内通知に必ず記載されています。
健診を受けるためのクーポン券や受診券が郵送されることが一般的で、その券に自己負担額や受診可能な医療機関が記載されています。
特定健康診査はどのように行われる?検査内容は?
特定健康診査は、主に以下の項目で行われます。所要時間は、問診や検査の内容、混雑状況にもよりますが、概ね30分~1時間程度です。
必須の検査項目
- 質問票(問診):服薬歴、喫煙歴、生活習慣(食事、運動、飲酒、睡眠など)に関する質問。
- 身体計測:身長、体重、腹囲、BMI(体格指数)の測定。腹囲はメタボリックシンドロームの診断基準となる重要な項目です。
- 血圧測定:収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)の測定。
- 血液検査:
- 脂質検査:中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール
- 血糖検査:血糖値、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
- 肝機能検査:GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP
- 尿検査:尿糖、尿蛋白の有無。
医師の判断で追加されることがある項目(詳細な健診項目)
前年度の健診結果や質問票の内容に基づき、医師が必要と判断した場合に実施されることがあります。
- 心電図検査
- 眼底検査
- 貧血検査
これらの検査結果を総合的に評価し、対象者がメタボリックシンドロームに該当するかどうか、あるいはそのリスクが高いかどうかを判断します。
特定健康診査の結果はどうなる?その後の特定保健指導とは?
特定健康診査の結果は、健診実施機関から後日、郵送または面談で通知されることが一般的です。健診を受けた医療機関で医師や保健師から直接説明を受ける場合もあります。
結果通知
通知書には、各検査項目の数値、基準値、そして総合的な判定結果が記載されています。ここで重要なのは、単に数値を見るだけでなく、その結果に基づいて「特定保健指導」の対象になるかどうかです。
特定保健指導とは?
特定健診の結果、生活習慣病の発症リスクが高いと判定された方に対して行われる専門家(保健師、管理栄養士など)によるサポートです。健診は「今の状態を把握すること」が目的ですが、特定保健指導は「生活習慣を改善し、将来の病気を予防すること」が目的です。
特定保健指導は、リスクの高さに応じて以下の3つのレベルに分かれます。
- 情報提供:特定保健指導の対象とはなりませんが、健診結果の説明とともに、健康的な生活に関する一般的な情報が提供されます。
- 動機付け支援:生活習慣を改善するための行動変容について、専門家が目標設定などをサポートします。原則として1回、面談やグループ支援などが行われ、6ヶ月後に目標達成度を確認します。
- 積極的支援:最もリスクが高いと判定された方への手厚いサポートです。専門家が3ヶ月以上の期間、複数回にわたる面談、電話、メールなどで継続的に支援し、生活習慣改善をサポートします。6ヶ月後に目標達成度を確認します。
特定保健指導も、特定健診と同様に、費用の大部分が医療保険者によって負担されるため、個人の自己負担額は非常に少額か、無料の場合が多いです。指導を受けることで、専門家からの具体的なアドバイスや継続的なサポートを受けられ、より効果的に生活習慣を改善することができます。
特定健診を受けて終わりではなく、その後の結果説明をしっかりと聞き、必要であれば特定保健指導を積極的に活用することが、自身の健康を守る上で最も重要です。
まとめ
特定健康診査は、40歳から74歳の方を対象とした、生活習慣病、特にメタボリックシンドロームに着目した健康診断です。病気の早期発見と重症化予防、そして将来の健康リスク低減のために非常に重要な役割を果たします。費用は比較的安価または無料で受診でき、全国の医療機関や集団健診会場で実施されています。健診結果に基づいて、必要な場合は特定保健指導が提供され、専門家のサポートを受けながら生活習慣の改善に取り組むことができます。自身の健康状態を知り、より良い未来のために、積極的に特定健診を受けましょう。