日本の国土は、地形や気候の特性から、自然災害のリスクと常に隣り合わせにあります。特に、地震、台風、豪雨などによって引き起こされる土砂崩れ、崖崩れ、浸水などの被害は甚大になる可能性があります。このような災害から国民の生命や財産を守るため、特に危険性の高い区域が法に基づいて指定されています。その一つが「災害危険区域」です。

【災害危険区域】それは一体何?

「災害危険区域」とは、建築基準法第39条に基づき、地方公共団体(主に都道府県)が条例によって指定する区域です。この区域は、建築物の建築を原則として制限したり、特定の構造や用途の建築物のみを許可したりすることで、将来発生しうる災害による被害の拡大を防ぐことを目的としています。

単に「災害リスクがある場所」を示すだけでなく、**建築行為に対して法的な制限が伴う**点が、他の多くのハザード情報とは決定的に異なります。

具体的にどのような危険を想定しているのか?

  • 急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)
  • 土石流
  • 地すべり
  • 津波
  • 高潮
  • その他の災害(地方公共団体の判断による)

これらの災害が発生した場合に、建築物が倒壊したり流失したりして、居住者や周辺住民に重大な被害が生じる可能性が高いと判断される区域が指定の対象となります。

なぜ「災害危険区域」として指定する必要があるのか?

指定の主たる理由は、人の生命を守ることです。災害が発生しやすい場所に安易に建物を建ててしまうと、そこに住む人はもちろん、救助にあたる人々の命まで危険に晒されることになります。

具体的な目的は以下の通りです。

  1. 生命の安全確保: 最も重要な目的です。危険な場所に建築物を増やさないことで、災害発生時の犠牲者をゼロに近づけることを目指します。
  2. 財産の保護: 建築物が倒壊・流失すれば、個人の財産が失われるだけでなく、社会全体の損失にもつながります。不適切な建築を制限することで、財産の損失リスクを減らします。
  3. 災害対策活動の円滑化: 危険区域内に多くの人が居住していると、災害発生時の避難や救助活動が困難になります。指定区域内での居住を減らすことは、これらの活動を効率化し、二次被害を防ぐことにもつながります。
  4. 都市計画・土地利用の適正化: 災害リスクの高い場所を明らかにし、そこでの土地利用に制限を設けることで、より安全なまちづくりや土地利用計画を推進します。

建築物の「位置」や「構造」を制限することで、災害発生時のリスクそのものを低減させようとする、予防的な措置と言えます。

「災害危険区域」は一体どこにあるのか?

災害危険区域は、全国各地に存在します。その多くは、過去に災害が発生した経験があったり、地形的に災害リスクが高いと客観的に判断されたりする場所に集中しています。

具体的な場所の例としては:

  • 山間部や丘陵地の急傾斜地周辺: がけ崩れや土砂災害(土石流、地すべり)のリスクが高い場所です。特に、過去に崩壊履歴がある場所や、地質が脆弱な場所などが含まれます。
  • 海岸線や大きな河川の河口部: 津波や高潮のリスクが高い場所です。過去の津波浸水域や、地形的に波が集まりやすい場所などが考えられます。
  • 河川沿いの低地: 河川の氾濫による浸水リスクが高い場所ですが、災害危険区域の指定対象となるのは、特に建物の流失や倒壊のリスクが高いと考えられる、激しい流れが想定される場所などが中心となることが多いです。単なる浸水想定区域とは区別されることが多いです。
  • 特定の地質構造を持つ区域: 地すべりの兆候が見られる場所や、特殊な地質によって災害リスクが高まっている場所などです。

これらの区域は、それぞれの地形や過去の災害履歴、地質調査の結果などを基に、各都道府県が個別に調査・指定を行います。そのため、場所によって指定の理由や対象となる災害の種類が異なります。

「災害危険区域」の数はどれくらいあるのか?

全国に「災害危険区域」が一体どれだけあるのか、正確な総数を把握するのは困難です。というのも、指定は各都道府県が行い、その範囲や数は常に変動する可能性があるためです。

しかし、重要な点は「数が多いか少ないか」ではなく、**「あなたの関心のある場所が指定されているか否か」**です。

日本は国土の約7割が山地であり、海岸線も長いため、土砂災害や津波・高潮のリスクが高い場所は全国に広く点在しています。したがって、災害危険区域も特定の地域だけでなく、全国の様々な都道府県、多くの市町村内に存在していると理解しておくべきです。

また、指定区域の範囲は、数平方メートルの小さな崖地から、広範囲にわたる沿岸部や山麓まで、様々です。

具体的な数や範囲については、後述の「どう調べるか」の方法で、対象の場所を管轄する地方公共団体に確認する必要があります。

自分の土地や検討している場所が「災害危険区域」か、どうやって調べる?

これが最も実用的で重要な情報です。災害危険区域かどうかを確認する方法はいくつかあります。

  1. 管轄の市町村役場や都道府県庁に問い合わせる(最も確実):
    • 対象の土地の所在地(地番など)を持って、その土地を管轄する市町村役場の建築指導課や都市計画課、防災課などの窓口に直接問い合わせるのが最も確実です。
    • 大きな都市や都道府県の場合は、都道府県庁の建築関連部署や砂防・河川関連部署などが担当していることもあります。
    • 窓口では、指定図面や告示情報などを見せてもらい、具体的な範囲や指定の理由、制限内容を確認できます。
  2. オンラインのハザードマップや地図情報を確認する(補助的な情報):
    • 多くの市町村や都道府県は、ウェブサイト上で様々なハザードマップを公開しています。
    • これらのハザードマップに「災害危険区域」の表示が含まれている場合があります。
    • ただし、オンライン情報が常に最新であるとは限らないことや、縮尺によって詳細が確認しにくい場合があるため、**最終確認は必ず窓口で行うべき**です。
    • 国土地理院のハザードマップポータルサイトなども出発点として有用ですが、災害危険区域そのものの指定情報は自治体が持っています。
  3. 不動産業者に確認する:
    • 土地や建物を購入または賃借する際は、宅地建物取引業法に基づき、不動産業者は重要事項説明の中で、その物件が災害危険区域内にあるか否かを説明する義務があります。
    • ただし、説明を鵜呑みにせず、ご自身でも役所に確認することをお勧めします。

注意点:

  • 「災害危険区域」は、急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)、洪水浸水想定区域など、他の様々な災害リスクに関する指定や想定とは異なります。名称が似ていたり、区域が重複したりすることもありますが、「災害危険区域」は建築基準法に基づく建築制限が特徴です。役所で確認する際は、どの指定・区域なのかを明確に尋ねましょう。
  • 指定図面は白図の上に区域が描かれているため、対象地の地番や公図などを用意しておくと、正確な位置を確認しやすくなります。

「災害危険区域」に指定されていると、建築や土地利用はどうなる?

これが最も重大な影響です。災害危険区域に指定されると、建築物の建築に関して厳しい制限がかかります。

具体的な制限内容は、指定した地方公共団体の条例によって異なりますが、一般的な内容は以下の通りです。

  1. 建築物の建築原則禁止:
    • 多くの場合、区域内での建築物の「新築」は原則として禁止されます。
    • これは、新たな建物を建てることで、そこに住む人のリスクが増加することを防ぐためです。
  2. 特定の建築物のみ建築可能、または許可が必要:
    • 一部の地方公共団体では、居住を目的としない施設(例:公共施設、災害対策用施設)や、構造的な安全性が極めて高いと認められる建築物など、特定の建築物であれば許可を受けて建築できる場合があります。
    • 増築、改築、移転についても、一定規模以上の場合や構造に関わる変更の場合に制限がかかることがあります。
  3. 移転の推奨と助成制度:
    • 既に区域内に建築物がある場合、地方公共団体によっては、安全な場所への移転を推奨し、その費用の一部を助成する制度(移転促進事業)を設けている場合があります。
    • これは強制ではありませんが、リスクを避けるための重要な選択肢となります。
  4. 既存建築物の増改築制限:
    • 既存の建築物についても、大規模な増築や改築、改修を行う際に、区域の制限が適用される場合があります。
    • 修繕や模様替えなど、構造に大きな影響を与えない軽微な変更であれば、制限なく行えることが多いです。
  5. 土地の売買や資産価値への影響:
    • 建築が極めて制限されるため、土地の利用価値が著しく低下し、売買が難しくなったり、資産価値が低下したりする傾向があります。
    • 住宅ローンについても、建築が制限される土地に対しては融資が難しくなることがあります。

重要なポイント:

  • 指定された区域内で、**いつ、どのような制限がかかるか**は、**指定した地方公共団体の条例を個別に確認する**必要があります。同じ災害危険区域でも、自治体によって制限内容に差がある場合があります。
  • 「原則禁止」であっても、条例に例外規定が設けられている場合もあります。詳細は窓口で確認が必要です。
  • 指定された場合、既存の建築物に直ちに立ち退きが強制されるわけではありませんが、将来的な建て替えや売却に大きな影響が出ることを理解しておく必要があります。

「災害危険区域」のリスクとどう向き合うか?

もし、お住まいの場所や所有する土地、あるいは購入を検討している場所が災害危険区域に指定されている、または指定される可能性があることが分かった場合、どのように対応すべきでしょうか?

  1. 正確な情報を把握する:
    • まず、管轄の役所の窓口で、区域の正確な範囲、指定された根拠(どのような災害リスクか)、具体的な建築制限の内容を詳細に確認します。
    • 指定図面や関連条例の条文などを入手できるか確認しましょう。
  2. 専門家に相談する:
    • 建築士、不動産業者、法律家(行政法に詳しい方)など、専門家からアドバイスを受けましょう。
    • 検討している建築計画が条例に適合するか、土地の活用方法、売買の可能性、法的な手続きなどについて具体的な意見を聞けます。
  3. 移転や建て替えの可能性と費用を検討する:
    • もし区域内に居住中の建物がある場合、長期的な安全を考えるならば、安全な場所への移転が最も抜本的な対策です。
    • 自治体の移転助成制度があるか、利用できる条件は何かを確認します。
    • やむを得ず既存の建物に住み続ける場合や、制限内で建て替え・改修が可能か検討する場合は、耐災害性の高い構造にするなどの対策が必要か、専門家と相談します。
  4. 防災計画を立てる:
    • 区域内のリスクを踏まえ、家族や地域での避難計画を具体的に立てます。避難場所、避難経路、連絡方法、持ち出し品などを明確にします。
    • 地域の防災訓練に積極的に参加しましょう。
  5. 災害保険を検討する:
    • 火災保険と合わせて、地震保険や水災補償などの災害保険に加入しているか、補償内容が十分かを確認します。ただし、保険はあくまで事後の補償であり、生命の安全を守るものではないことに留意が必要です。
  6. 代替地の検討:
    • もし土地購入を検討していた場合、災害危険区域であることを踏まえ、別のより安全な場所も併せて検討することが賢明です。
    • どうしてもその場所が良い場合は、リスクと制限を十分理解した上で、許容できるか判断します。

災害危険区域の指定は、決して住んでいる人々を追い出すためのものではなく、将来起こりうる災害から命を守るための重要なサインです。正確な情報を知り、適切に対応することで、リスクを理解し、安全な暮らしや土地利用につなげることが可能です。

災害危険区域

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