源泉徴収額とは何か?何のために徴収されるのか?
私たちが給与や報酬を受け取る際、受け取る金額からあらかじめ差し引かれている税金があります。これが
「源泉徴収」と呼ばれる仕組みであり、その差し引かれた「税金の額」こそが
「源泉徴収額」です。
具体的にどのような収入から差し引かれるのか?
源泉徴収額は、主に以下のような所得から差し引かれます。
- 給与所得: 会社員やパート・アルバイトの月々の給与、賞与(ボーナス)
- 退職所得: 退職時に支払われる退職金
- 報酬・料金等: フリーランスや個人事業主が受け取る原稿料、講演料、デザイン料、士業(弁護士、税理士など)の報酬など
- 利子所得: 預貯金の利子など
- 配当所得: 株式の配当金など
この記事では、特に多くの方が関わる機会の多い「給与所得」や「報酬・料金等」にかかる源泉徴収額を中心に解説します。
なぜ源泉徴収額は差し引かれるのか?
税金は本来、1年間の所得が確定した後に自分で計算して納めるのが原則です(これを「申告納税」と言います)。
しかし、給与や報酬を受け取る側(所得者)が自分で毎回税金を計算し、納付するのは非常に手間がかかります。また、国にとっても納税漏れを防ぎ、安定的に税収を確保するために、支払いをする側(源泉徴収義務者)が事前に税金を差し引いて国に納める仕組みが効率的なのです。
源泉徴収は、
税金の前払い・天引き
というイメージで捉えると分かりやすいでしょう。
この「前払い・天引きされた金額」こそが「源泉徴収額」なのです。
差し引かれた源泉徴収額は、支払いを行った会社や事業主(源泉徴収義務者)によって、原則として支払った月の翌月10日までに税務署に納付されます。
あなたの源泉徴収額はいくら?具体的な計算方法
源泉徴収額の計算方法は、収入の種類によって異なります。ここでは、給与所得と報酬・料金等の主なケースを見てみましょう。
給与所得の場合(月々の給与、賞与)
月々の給与にかかる源泉徴収額
給与所得の場合、源泉徴収額は「給与所得の源泉徴収税額表」という国税庁が定めた税額表に基づいて計算されます。この税額表は、月々の給与から社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)を差し引いた後の金額と、扶養している家族の人数(扶養親族等の数)によって決まります。
計算のおおまかな流れは以下のようになります。
- その月の社会保険料等の金額を計算する。
- 総支給額から社会保険料等の金額を差し引く。(これを「社会保険料等控除後の給与等の金額」といいます)
- 「給与所得の源泉徴収税額表」の月額表を見ます。
- 上記2.の金額と、提出済みの「給与所得者の扶養控除等申告書」に記載された扶養親族等の数を確認します。
- 税額表の該当する箇所を見つけて、その月の源泉徴収税額(源泉徴収額)を決定します。
例えば、社会保険料等控除後の給与等が25万円で、扶養親族等が1人であれば、税額表の該当箇所を見れば源泉徴収額が分かります。税額表には「甲欄」と「乙欄」がありますが、通常、主たる給与の支払いを受けている会社では「甲欄」を適用します。「乙欄」は副業などで複数の会社から給与を受け取っている場合に、従たる給与に適用されます。
注意点:この月々の源泉徴収額は、あくまでその月の給与と扶養状況から概算で算出されたものです。1年間の正確な所得税額は、年末調整または確定申告で計算し直す必要があります。
賞与(ボーナス)にかかる源泉徴収額
賞与にかかる源泉徴収額も税額表を使いますが、給与とは異なる計算方法を用います。一般的には、以下の要素をもとに計算されます。
- 前月の社会保険料等控除後の給与等の金額
- 賞与の金額
- 扶養親族等の数
具体的には、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」という別の税額表や計算式を使用します。給与の場合と同様に、社会保険料を差し引いた賞与額と、前月の給与額に応じた税率が適用されます。
報酬・料金等の場合(フリーランス・個人事業主など)
フリーランスや個人事業主が特定の種類の報酬を受け取る場合も源泉徴収が行われます。主な報酬の種類とその源泉徴収額の計算方法は以下の通りです。
- 原稿料、講演料、デザイン料など:
原則として、報酬額の10.21%(所得税10% + 復興特別所得税0.21%)が源泉徴収額となります。
例えば、報酬額が10万円であれば、10万円 × 10.21% = 10,210円が源泉徴収額となります。
ただし、同一人に対して1回の支払いが100万円を超える場合は、超える部分に対しては20.42%(所得税20% + 復興特別所得税0.42%)の税率が適用されます。
また、消費税を含んだ金額から源泉徴収するか、消費税抜きの金額から源泉徴収するかは、契約によって異なります。通常、契約書等で税込か税抜かが明記されていない場合は、税込金額に対して10.21%を計算します。 - 士業(弁護士、税理士、公認会計士、司法書士など)の報酬:
こちらも原則として、報酬額の10.21%(または100万円超の部分は20.42%)が源泉徴収額となります。 - その他:
外交員報酬、プロスポーツ選手、芸能人などの報酬についても源泉徴収の対象となりますが、それぞれ計算方法や税率が異なる場合があります。
報酬・料金等の場合、給与所得のように扶養親族の数によって税率が変わることはありません。一律の税率(10.21%など)が適用されるのが特徴です。
あなたの源泉徴収額はどこで確認できる?
自分がどれだけの源泉徴収額を差し引かれているのかは、以下の書類で確認できます。
給与明細書
会社員の方であれば、毎月受け取る給与明細書に、その月の総支給額、社会保険料、そして「所得税」または「源泉所得税」といった項目名でその月の源泉徴収額が記載されています。
源泉徴収票
これが最も重要な書類です。会社員の方は年末調整後に、退職された方は退職時に発行されます。フリーランスの方も、報酬の支払い元によっては発行される場合があります。
源泉徴収票には、その年の1月1日から12月31日までに支払われた
「支払金額」(年間の総支給額)と、そこから差し引かれた
「源泉徴収税額」(年間の源泉徴収額の合計)
が明記されています。
この「源泉徴収税額」の項目に記載されている金額が、あなたがその1年間に給与や賞与から前払い(天引き)された所得税の合計額です。源泉徴収票には他にも社会保険料の合計額や各種控除の情報なども記載されており、年末調整や確定申告を行う上で非常に重要な役割を果たします。
源泉徴収額はどう活用される?年末調整と確定申告
月々または支払いごとに差し引かれた源泉徴収額は、あくまで概算や前払いです。1年間の正確な所得税額は、その年の所得全体と、生命保険料控除や医療費控除などの様々な所得控除をすべて考慮して計算し直す必要があります。
この最終的な所得税額と、すでに差し引かれている源泉徴収額の合計を比べて、税金の精算を行うのが「年末調整」や「確定申告」です。
会社員の場合:年末調整
会社員の場合、通常は年末に会社が行う年末調整で税金の精算が行われます。
- 1年間の給与総額と、そこから差し引かれた社会保険料などが確定します。
- 会社は従業員から提出された書類(扶養控除等申告書、生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書など)に基づき、各種所得控除の合計額を計算します。
- 1年間の正確な所得税額を計算します。(「税額控除」もここで考慮されます)
- この正確な年間の所得税額と、1年間に差し引かれた源泉徴収額の合計(源泉徴収票に記載された「源泉徴収税額」)を比較します。
比較の結果、
- 年間の所得税額 < 1年間の源泉徴収額の合計 の場合:
税金を払いすぎている状態なので、差額が還付されます(税金が戻ってくる)。 - 年間の所得税額 > 1年間の源泉徴収額の合計 の場合:
税金が足りていない状態なので、差額を追納する必要があります。
多くの会社員は、この年末調整によって税金の手続きが完了します。
フリーランスや個人事業主の場合:確定申告
フリーランスや個人事業主、または年間の給与収入が2,000万円を超える会社員、2か所以上から給与を受け取っている会社員、副業の所得が一定額を超える会社員などは、原則として自分で確定申告を行う必要があります。
確定申告では、1月1日から12月31日までの全ての所得(事業所得、不動産所得、給与所得など)を合計し、そこから経費や各種所得控除を差し引いて、最終的な所得税額を自分で計算します。
計算された最終的な所得税額から、その年にすでに差し引かれた源泉徴収額の合計(支払い元から発行された源泉徴収票などに記載された金額)を差し引きます。
差し引きの結果、
- プラスであれば、その金額を追加で納付します。
- マイナスであれば、その金額が還付されます。
このように、源泉徴収額は確定申告における税金の前払い分として扱われ、最終的な納税額や還付額を計算するために不可欠な情報となります。
まとめ:源泉徴収額を理解することの重要性
源泉徴収額は、私たちが受け取る収入から自動的に差し引かれる税金ですが、その金額がどのように計算され、最終的にどのように扱われるのかを理解することは、自身の正確な所得税額を知り、税金の過不足を解消するために非常に重要です。
給与明細書や源泉徴収票をしっかりと確認し、記載されている源泉徴収額の意味を把握しておきましょう。そして、年末調整や確定申告の際には、この源泉徴収額が適切に計算されているか、そして正確な納税額の計算に正しく反映されているかを確認することが大切です。
源泉徴収制度は少し複雑に感じられるかもしれませんが、税金の納付をスムーズにし、納税者の負担を軽減するための仕組みです。自分の源泉徴収額に関心を持つことで、税金への理解を深め、適切な納税を行うことにつながります。