源泉徴収額表(げんせんちょうしゅうがくひょう)は、雇用主が従業員に支払う給与や賞与から所得税を源泉徴収する際に使用する、非常に重要な資料です。これは、税額を計算するための単なるツールではなく、所得税法に基づき、正しい税額を算出するために不可欠なものです。

源泉徴収額表とは具体的にどのようなものですか?

税額計算の基準となる公的な表

源泉徴収額表は、国税庁が発行している、給与や賞与から源泉徴収すべき所得税額または税率を示す公的な表です。雇用主(源泉徴収義務者)は、この表に基づいて、毎月や日々の給与、あるいは賞与を支払う際に、そこから天引きする所得税額を計算します。

この表には、給与や賞与の金額、そして従業員が提出した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に基づいた扶養親族等の数に応じて、徴収すべき税額が示されています。

なぜ源泉徴収額表を使う必要があるのですか?

所得税法の義務付け

所得税法により、給与や賞与などを支払う者(源泉徴収義務者)は、支払いの際に所定の方法で所得税を計算し、天引きして国に納める義務があります。この「所定の方法」として、源泉徴収額表を用いることが定められています。

納税の簡易化と安定化

従業員にとっては、給与が支払われる都度税金の一部が天引きされるため、確定申告時に一度に多額の税金を納める負担が軽減されます。国にとっては、税収が安定し、脱税を防ぐ効果もあります。源泉徴収額表は、この仕組みを円滑に運用するための標準的な計算方法を提供します。

源泉徴収額表を使うために必要な情報は?

源泉徴収額表を使用して正しい税額を計算するためには、主に以下の情報が必要です。

  • 給与や賞与の金額: 税金を計算する対象となる、社会保険料などを差し引く前の総支給額です。
  • 「扶養控除等(異動)申告書」の提出の有無と扶養親族等の数: 従業員からこの申告書が提出されているかどうかで、適用する表の欄(甲欄または乙欄)が変わります。申告書が提出されている場合は、そこに記載されている控除対象扶族親族等の人数を確認します。
  • 給与の支払い方(月払い、日払い、賞与など): 支払いの形態によって、使用する源泉徴収額表の種類が異なります。

特に重要なのが「扶養控除等(異動)申告書」です。 この申告書を提出している従業員には「月額表の甲欄」または「日額表の甲欄」を適用し、提出していない従業員には「月額表の乙欄」または「日額表の乙欄」を適用します。甲欄と乙欄では、同じ給与額でも源泉徴収される税額が大きく異なります。

源泉徴収額表はどのように使いますか?具体的な計算方法

給与の種類によって、使用する表と計算方法が異なります。ここでは、一般的な「月給」と「賞与」の場合の計算方法を説明します。

月額表(毎月の給与)の使い方

多くの正社員などに適用されるのが、この月額表です。

  1. 社会保険料等控除後の給与等の金額を計算する

    給与の総支給額から、健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの社会保険料と、非課税通勤手当などを差し引いた金額を計算します。この金額が、源泉徴収額表の対象となる「給与等の金額」です。

  2. 適用する欄(甲欄または乙欄)を確認する

    従業員から「扶養控除等(異動)申告書」が提出されているか確認します。提出されていれば「甲欄」、提出されていなければ「乙欄」を使用します。

  3. 表の該当する行を探す

    先ほど計算した「社会保険料等控除後の給与等の金額」が含まれる範囲を、表の左側にある「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」の列から探し出します。「○○円以上××円未満」といった形で範囲が記載されています。

  4. 適用する欄(甲欄または乙欄)の列と扶養親族等の数の列を確認する

    適用する欄(甲欄または乙欄)のブロック内で、従業員の「扶養控除等(異動)申告書」に記載された扶養親族等の数(0人、1人、2人…)に該当する列を確認します。乙欄の場合は、扶養親族等の数に関わらず列は固定されています。

  5. 該当する税額を読み取る

    手順3で見つけた行と、手順4で見つけた列が交差するマス目に記載されている金額が、その月に源泉徴収すべき所得税額です。

例:社会保険料等控除後の給与が255,000円で、扶養親族等の数が1人の従業員(扶養控除等申告書提出済み)の場合、月額表の「255,000円以上258,000円未満」の行を探し、甲欄の「1人」の列と交差する箇所にある税額を読み取ります。

賞与に対する源泉徴収額の算出方法

賞与(ボーナス)の源泉徴収額は、給与とは異なる計算方法を用いるのが一般的です。主に「前月給与方式」と呼ばれる方法で計算します。

  1. 前月の社会保険料等控除後の給与等の金額を確認する

    賞与を支払う月の前月に支払った給与について、社会保険料等控除後の金額を確認します。これが賞与の税額計算の基準となります。

  2. 賞与の社会保険料等控除後の金額を計算する

    支払う賞与の総支給額から、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)を差し引いた金額を計算します。

  3. 「賞与に対する源泉徴収額の算出率の表」または「賞与に対する源泉徴収税額の速算表」を使用する

    手順1で確認した前月の社会保険料等控除後の給与等の金額と、扶養親族等の数に応じて、表から税率または税額を読み取ります。

    • 算出率の表を使用する場合: 前月給与と扶養人数で決まる「税率」を読み取ります。
    • 速算表を使用する場合: 前月給与と扶養人数で決まる「控除額」を読み取ります。
  4. 源泉徴収税額を計算する

    使用した表によって計算方法が異なります。

    • 算出率の表の場合: 手順2の「賞与の社会保険料等控除後の金額」に、手順3で読み取った「税率」を乗じて計算します。
    • 速算表の場合: 手順2の「賞与の社会保険料等控除後の金額」から、手順3で読み取った「控除額」を差し引いて計算します。

注意点: 同じ年に2回目以降の賞与を支払う場合や、前月給与がない場合など、計算方法が異なる例外があります。また、税率を乗じる方法と速算表を使う方法があり、使用する表によって異なります。国税庁が提供する最新の資料で確認が必要です。

源泉徴収額表にはどのような種類がありますか?

支払いを受ける所得の種類や計算期間によって、複数の源泉徴収額表が存在します。主なものは以下の通りです。

  • 月額表

    毎月の給与や、半月ごとなど月を単位として支払われる給与に使用します。最も一般的に使用される表です。甲欄、乙欄に分かれています。

  • 日額表

    日雇い賃金のように日々計算して支払われる給与や、日払いのパート・アルバイトなどに使用します。こちらも甲欄、乙欄に分かれています。さらに、丙欄(へいらん)という、日雇いのうち一定の要件を満たす場合に適用される欄もあります。

  • 賞与に対する源泉徴収額の算出率の表(または速算表)

    賞与(ボーナス)の源泉徴収額を計算する際に使用します。月額表や日額表とは異なり、税率や計算に必要な控除額が記載されています。

  • 退職所得の受給に関する申告書を提出した者に対する退職所得の源泉徴収税額の速算表

    退職金の源泉徴収額を計算する際に使用します。勤続年数に応じて税額が計算されるため、専用の速算表があります。

この他にも、特定の報酬や料金(原稿料、講演料、士業への報酬など)に対する源泉徴収の方法を定めたものもありますが、一般的に「源泉徴収額表」と言う場合は、給与や賞与に関する上記の表を指すことが多いです。

最新の源泉徴収額表はどこで入手できますか?

源泉徴収額表は、税法改正などにより毎年改訂されることがあります。必ず最新の表を使用する必要があります。

  • 国税庁のウェブサイト

    最も確実で手軽な入手方法です。国税庁のウェブサイトには、その年の最新の源泉徴収額表がPDF形式などで公開されています。「源泉徴収税額表」といったキーワードで検索すると見つけることができます。法改正があった場合なども、速やかに情報が更新されます。

  • 税務署

    お近くの税務署でも、印刷された源泉徴収額表を入手することができます。

  • 税務関連の書籍やソフトウェア

    市販されている税務に関する書籍や、給与計算ソフトウェアにも、最新の源泉徴収額表が収録されていることが多いです。ただし、法改正対応状況には注意が必要です。

重要なのは、必ずその年の1月1日以降に有効な最新版を使用することです。 前年の古い表を使用すると、税額計算を誤る可能性があります。

源泉徴収額表で計算した金額は、最終的な税額ですか?

源泉徴収額表で計算して給与や賞与から天引きされる所得税額は、あくまで年間の所得税額を概算で前払いするためのものであり、多くの場合、最終的な年間の所得税額とは異なります。

なぜなら、源泉徴収額表は、年間の所得や適用できる所得控除(生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、住宅借入金等特別控除など)を全て反映しているわけではないからです。

年間の正確な所得税額は、その年の1月1日から12月31日までの総所得金額から、全ての所得控除を差し引いて計算した課税所得金額に税率を適用して確定します。

年末調整(ねんまつちょうせい)

ほとんどの給与所得者は、年末に勤務先で行われる年末調整によって、年間の正確な所得税額を計算し、源泉徴収された税額との差額を精算します。源泉徴収で多く払いすぎていれば還付され、少なすぎれば追加徴収されます。源泉徴収額表は、この年末調整を円滑に進めるための、月々の「仮の」税額を計算する役割を果たしています。

確定申告(かくていしんこく)

年収が2,000万円を超える人や、2か所以上から給与をもらっている人、給与所得以外の所得がある人などは、年末調整ではなく自分で確定申告を行う必要があります。この場合も、源泉徴収票に記載された源泉徴収税額は、すでに前払いした税額として扱われ、確定申告で計算された最終的な税額との差額を精算します。

したがって、源泉徴収額表は、年間所得税の計算の第一歩であり、正確な税額は年末調整や確定申告を経て確定することを理解しておくことが重要です。

源泉徴収額表は、雇用主が適切な源泉徴収を行うための基本的なツールです。その種類、使い方、入手方法、そしてそれが最終税額ではないことなどを正しく理解しておくことは、給与計算担当者にとっても、また給与を受け取る従業員にとっても、税務を理解する上で非常に役立ちます。

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