普通養子縁組は、実の親子関係がなくても、法律上の親子関係を成立させるための制度です。この制度は、特別養子縁組と並び、日本の養子縁組制度の柱の一つですが、その目的や効果には明確な違いがあります。ここでは、普通養子縁組について、「それは何か」「なぜ行われるのか」「誰ができるのか」「どのように行うのか」「どこで行うのか」「どのくらい費用がかかるのか」「どのような効果があるのか」といった具体的な疑問に答える形で、詳しく解説していきます。
普通養子縁組とは? 特別養子縁組との違い
普通養子縁組とは、養子となる者と養親となる者の間に、法律上の親子関係を成立させる制度です。この制度の大きな特徴は、養子と実親(生みの親)との間の法的な親子関係が存続するという点です。つまり、養子は養親の子供であると同時に、実親の子供でもあり続けるのです。
これに対し、特別養子縁組は、原則として6歳未満の子供を対象とし、養子と実親との間の法的な親子関係を完全に解消する制度です。特別養子縁組の場合、養子には実親に関する情報は原則として開示されず、養子と実親は完全に切り離された新しい親子関係を築きます。
このように、普通養子縁組は実親との関係を残す点が最も重要な違いであり、この特性から様々な目的で利用されています。
普通養子縁組と特別養子縁組の主な違い
- 実親との関係: 普通養子縁組は関係存続、特別養子縁組は関係解消。
- 対象年齢: 普通養子縁組は原則制限なし(未成年から成人まで)、特別養子縁組は原則6歳未満。
- 成立方法: 普通養子縁組は市町村役場への届出、特別養子縁組は家庭裁判所の審判。
- 親権: 普通養子縁組(未成年の場合)は養親が行使、特別養子縁組は養親のみが行使し実親は喪失。
- 相続権: 普通養子縁組は実親と養親双方から相続、特別養子縁組は養親からのみ相続。
- 離縁: 普通養子縁組は離縁可能(合意または裁判)、特別養子縁組は原則離縁不可。
なぜ普通養子縁組が選ばれるのか? 主なケース
普通養子縁組は、実親との関係を残したい場合や、特定の目的のために柔軟な親子関係を築きたい場合に利用されます。具体的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 親族間の扶養・養育: 親が病気や死亡などで子供を育てられなくなった場合に、祖父母や伯父・伯母などの親族が養親となるケース。実親との関係を残しつつ、子供の養育環境を安定させることが目的です。
- 連れ子との親子関係: 再婚した夫婦の一方が連れてきた子供と、もう一方の配偶者が養子縁組をするケース(連れ子養子)。実親との関係を残したまま、新しい配偶者とも法的な親子関係を築くことで、家庭内での立場を明確にし、相続などの権利も発生させます。
- 家業の承継・財産相続対策(跡継ぎ養子): 子供がいない夫婦や、子供がいても家業を継ぐ意思がない場合に、親族や他家の成人した人物と養子縁組をすることで、家業や財産の承継を円滑にするケース。成人を養子にできるのは普通養子縁組ならではの特徴です。
- 生計を同一にする者の扶養: 必ずしも親族でなくても、長く生計を共にしている者同士で、将来的な扶養関係や相続を明確にするために養子縁組をするケース。
このように、普通養子縁組は、血縁に関わらず家族的な繋がりを法的に補強したり、特定の目的(扶養、相続など)を達成したりするために幅広く活用されています。
養子縁組の要件(誰が誰を養子にできるか)
普通養子縁組を行うためには、民法で定められたいくつかの要件を満たす必要があります。
養親となる者の要件
- 年齢: 満20歳以上であること。
- 意思能力: 養子縁組をする意思があること。
- 配偶者の同意: 養親が婚姻している場合、その配偶者の同意が必要不可欠です。同意がない養子縁組は無効となります(ただし、配偶者の子を養子とする場合は不要)。
- 禁治産者・準禁治産者等でないこと: 判断能力がない、または著しく不十分な状態でないことが望ましいです。
養子となる者の要件
- 意思能力・同意:
- 養子が15歳未満の場合:実親(親権者)の代諾(代わりに縁組を承諾すること)が必要です。ただし、実親がいない、または意思表示ができないなどの場合は、後見人などが家庭裁判所の許可を得て代諾します。
- 養子が15歳以上の場合:養子本人の同意が必要です。
- 養子が成人している場合:養子本人の同意のみで、実親の同意は不要です。
- 実親の同意(養子が未成年の場合): 養子が未成年である場合、原則として実父母の同意が必要です。ただし、実父母が死亡している、行方不明である、意思表示ができないなど同意を得られない正当な理由がある場合は、家庭裁判所の許可を得て同意なく縁組することも可能です(この場合、家庭裁判所の関与が必要となります)。
- 尊属または年長者でないこと: 養親の直系尊属(父母、祖父母など)や、養親よりも年長の者は養子になることができません(ただし、配偶者の連れ子で養親より年長である場合は例外的に認められることがあります)。
- 後見人が被後見人を養子とする場合: 家庭裁判所の許可が必要です。
これらの要件を満たした上で、養親と養子(またはその代諾者)の間で養子縁組をする合意が成立していることが、普通養子縁組の前提となります。
普通養子縁組の手続き
普通養子縁組の手続きは、原則として当事者間の合意に基づき、市区町村役場に「養子縁組届」を提出することで完了します。家庭裁判所の審判は、原則として不要です。
基本的な流れ
- 養子縁組の合意: 養親となる者と養子となる者(またはその代諾者)の間で、養子縁組を行うことについて合意します。未成年者の養子縁組の場合は、実親(親権者)の同意も得ます。
- 必要書類の準備: 養子縁組届の提出に必要な書類を収集・作成します。
- 養子縁組届の作成: 養子縁組届に必要事項を記入し、関係者が署名・押印します。証人(成人2名)の署名・押印も必要です。
- 養子縁組届の提出: 届出人の本籍地または所在地の市区町村役場に、作成した養子縁組届と必要書類を提出します。
- 受理と戸籍への記載: 役場で提出された届出が受理されると、養子縁組の効力が発生し、関係者の戸籍に養子縁組の事実が記載されます。
養子縁組届の提出先はどこ?
養子縁組届は、養親または養子の本籍地、または届出人の所在地(住所地など)の市区町村役場に提出します。どちらの役場でも手続き可能です。
提出が必要な主な書類
提出先の役場や個別の状況によって異なる場合がありますが、一般的に必要となる主な書類は以下の通りです。
- 養子縁組届: 役場の窓口でもらえます。証人2名の署名・押印が必要です。
- 届出人の戸籍謄本(全部事項証明書): 本籍地以外の役場に提出する場合に必要です。養親と養子の両方のものが必要です。
- 養子の戸籍謄本(全部事項証明書): 同上。
- 養子が未成年の場合:
- 養子の実父母の同意書(原則)。
- 実父母の戸籍謄本など、同意権者であることを証明する書類。
- 家庭裁判所の許可審判書謄本(実父母の同意が得られない場合など、裁判所の許可が必要なケース)。
- その他: 養親または養子に配偶者がいる場合の配偶者の同意書、本人確認書類、印鑑(届出に押印したもの)などが必要となる場合があります。事前に提出先の役場に確認することをお勧めします。
書類に不備がなければ、原則として提出したその日に受理され、養子縁組が成立します。
普通養子縁組にかかる費用
普通養子縁組の手続き自体にかかる公的な費用は、非常に低額です。主な費用は以下の通りです。
- 養子縁組届の提出: 無料。役場に支払う手数料はありません。
- 必要書類の取得費用:
- 戸籍謄本(全部事項証明書): 1通あたり450円程度。
- 住民票: 1通あたり300円程度。
これらの書類を数通取得しても、合計数千円程度で済みます。
- 専門家への依頼費用(任意):
- 弁護士や行政書士に手続きや書類作成の相談・依頼をする場合、別途費用が発生します。費用は依頼内容や事務所によって大きく異なりますが、数万円から数十万円程度が目安となることがあります。ご自身で手続きを行う場合は、この費用は不要です。
このように、養子縁組届を自身で作成・提出する場合、かかる費用は必要書類の取得費用の実費のみであり、経済的な負担は小さいと言えます。
普通養子縁組の法的な効果
普通養子縁組が成立すると、以下のような法的な効果が発生します。
- 法律上の親子関係の発生: 養子と養親の間に、嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子)と同様の法律上の親子関係が発生します。これにより、養親には養子を扶養する義務が生じ、養子には養親に対し扶養を受ける権利が生じます。
- 親権: 養子が未成年の場合、養親が親権者となります。養親が複数いる場合(夫婦で養子縁組した場合)は、原則として父母が共同で親権を行使します。
- 相続権: 養子は、養親の法定相続人となります。実子と同じ順位・同じ相続分を持ちます。また、普通養子縁組では実親との関係が残るため、養子は実親の相続人であると同時に養親の相続人ともなります(双方からの相続権を持ちます)。これは特別養子縁組との大きな違いです。
- 氏(姓)の変更: 原則として、養子は養親の氏を称することになります。ただし、養子縁組届の際に「養子となる者が養子縁組前の氏を称する」旨を記載すれば、縁組後も従前の氏を使い続けることができます。
- 姻族関係: 養親の親族と養子の間に姻族関係が発生します(例: 養親の兄弟姉妹は養子の叔父・叔母となる)。ただし、実親の親族との姻族関係も存続します。
その他の考慮事項
- 離縁の可能性: 普通養子縁組は、当事者の合意や家庭裁判所の調停・審判によって解消(離縁)することが可能です。特別な理由がない限り離縁できない特別養子縁組とは異なり、比較的容易に解消できる場合があります。離縁すると、養子縁組によって生じた法律上の親子関係や親族関係は解消され、原則として養子縁組前の氏に戻ります。
- 子供への告知: 養子が幼い場合に、普通養子縁組の事実をいつ、どのように伝えるか(告知義務があるわけではないが、親子関係を築く上で重要となる)は、家族にとって重要な課題となります。
- 実親との関係性: 普通養子縁組の場合、実親との法的な関係は存続します。養育は養親が行うとしても、実親との交流の程度などを家族間でどのように調整していくかが課題となることがあります。
まとめ
普通養子縁組は、実親との法的な関係を維持したまま、新たな親子関係を築くことができる柔軟な制度です。家業の承継、連れ子の養子、親族間の扶養など、様々な目的で利用されており、手続きも原則として役場への届出で完了するため、比較的容易に行うことができます。しかし、その法的な効果は相続権や氏の変更など広範にわたるため、縁組を検討する際には、その目的や将来的な影響を十分に理解し、慎重に進めることが重要です。