技術士(Professional Engineer)は、科学技術に関する高度な専門知識と応用能力、および高い技術者倫理を備えていることを証明する、国による資格です。この技術士資格を取得するためには、一般的に第一次試験と第二次試験の二段階の試験に合格する必要があります。本記事では、その第一歩となる「技術士第一次試験」に焦点を当て、受験を検討している方々が抱くであろう様々な疑問に詳細かつ具体的に回答します。

技術士一次試験とは何か?

技術士第一次試験は、技術士となるために必要な科学技術全般にわたる基礎知識、技術士法を含む技術者の倫理や義務に関する適性、選択した専門分野に関する専門知識と応用能力が問われる試験です。この試験に合格することが、原則として技術士第二次試験の受験資格を得るための要件の一つとなります。
試験は公益社団法人 日本技術士会によって実施され、技術者としての基本的な素養を確認することを目的としています。合格すると「修習技術者」として登録することが可能となり、技術士補となる道や、技術士二次試験へのステップとなります。

技術士第一次試験は、技術士となるための第一歩であり、基礎力と適性を測る重要な試験です。この試験を突破することで、技術士への道が開かれます。

なぜ技術士一次試験を受験する必要があるのか?

技術士第一次試験を受験する主な理由は、以下の点にあります。

  • 技術士第二次試験の受験資格取得:
    技術士第二次試験を受験するには、原則として修習技術者であることが必要です。修習技術者となる最も一般的な方法が、技術士第一次試験に合格することです。(※JABEE認定課程修了などの例外もありますが、多くの社会人受験者にとって一次試験合格が主要なルートです。)
  • 技術者としての基礎知識・倫理の確認:
    幅広い科学技術の基礎、技術者としての高い倫理観、法律遵守の意識などが問われます。これらを体系的に学ぶことは、技術者としてのレベルアップに繋がります。
  • 自身の知識・能力の客観的な証明:
    国家資格の試験に合格することは、自身の技術的な基礎力や倫理観が一定水準以上であることを客観的に証明できます。

したがって、技術士を目指すのであれば、一次試験の突破は避けて通れない重要なステップとなります。

試験はいつ、どこで実施されるのか?

技術士第一次試験は、年に一度実施されます。

  • 実施時期:
    例年、秋頃(通常10月)の日曜日に実施されます。正確な日程は、毎年春頃に日本技術士会の公式ウェブサイトで発表されます。
  • 試験地:
    日本国内の主要都市を中心に、複数の試験地が設けられます。具体的な試験地は、試験実施年の願書受付期間に合わせて日本技術士会のウェブサイトで公表されます。一般的には、札幌、仙台、東京、横浜、新潟、名古屋、大阪、広島、高松、福岡、那覇などで実施されます。受験者は願書提出時に希望の試験地を選択します。

受験を計画する際は、最新の試験実施要項を必ず日本技術士会のウェブサイトで確認してください。

受験にはどれくらいの費用がかかるのか?

技術士第一次試験の受験には、受験手数料が必要です。

  • 受験手数料:
    令和5年度(2023年度)の受験手数料は、11,000円(非課税)でした。この金額は改定される可能性もあるため、必ず最新の受験要項で確認してください。
  • その他の費用:
    受験手数料の他に、願書を取り寄せる費用、郵送費用、試験会場までの交通費、宿泊費(遠方の場合)、そして後述する学習のための教材費や予備校の受講料などがかかります。

費用を計画する際は、受験手数料だけでなく、関連する諸費用も考慮に入れることが重要です。

どのように申し込むのか?申込方法の詳細

技術士第一次試験の申込は、決められた期間内に行う必要があります。

申込方法は、通常、インターネットによる受付郵送による受付があります。

一般的な申込の流れ:

  1. 受験要項の入手:
    毎年春頃に日本技術士会のウェブサイトに掲載される受験要項を確認します。ここで、試験日程、試験地、申込期間、申込方法、必要書類、受験手数料などが詳細に記載されています。
  2. 願書の準備:
    日本技術士会のウェブサイトからダウンロードするか、郵送で取り寄せるなどして、所定の願書(受験申込書)を入手します。インターネット申込の場合は、ウェブサイト上のフォームに直接入力します。
  3. 必要事項の記入・入力:
    氏名、住所、生年月日、学歴、職歴(任意)、希望する技術部門(専門科目)、希望試験地などを正確に記入または入力します。
  4. 写真の準備:
    願書には、指定されたサイズ(通常は縦4.5cm×横3.5cm)の顔写真(カラー、無帽、正面、背景なし、申請前6ヶ月以内に撮影したもの)を貼付または画像データをアップロードします。
  5. 受験手数料の支払い:
    指定された方法(クレジットカード、コンビニエンスストア、銀行振込など)で受験手数料を支払います。支払いを証明する書類(写し)や情報が必要になる場合があります。
  6. 願書提出:
    郵送の場合は、簡易書留など追跡可能な方法で、指定された受付期間内に日本技術士会宛に郵送します。
    インターネット申込の場合は、入力完了後、指定された方法で送信します。支払いが完了していることを確認してください。
  7. 受験票の受領:
    申込受付後、試験日の約数週間前までに、受験票が郵送またはインターネット上で発行されます。受験票には、試験会場や注意事項などが記載されています。必ず内容を確認し、試験当日持参します。

    重要: 申込期間は短く、締切厳守です。また、必要書類に不備があると受け付けられない場合がありますので、受験要項をよく読み、余裕をもって準備を進めることが非常に重要です。特にインターネット申込は、期間終了間際はアクセスが集中する可能性もあります。

    どのように学習対策を進めるべきか?効果的な勉強方法

    技術士第一次試験の対策は、計画的に進めることが成功の鍵となります。試験は「共通科目」「適性科目」「専門科目」の3科目で構成されており、それぞれ対策が必要です。

    試験科目の概要と対策のポイント

    共通科目(多肢選択式):
    科学技術全般に関する基礎知識(数学、物理、化学、生物、地学、情報、環境など)が問われます。高校~大学初級レベルの知識がベースとなります。

    • 対策: 幅広い分野から出題されるため、苦手分野を作らないことが理想です。過去問を解くことで、出題傾向と自身の弱点を把握できます。市販の参考書や問題集も活用しましょう。計算問題も含まれるため、繰り返し練習が重要です。

    適性科目(多肢選択式):
    技術士法に定められた技術士の倫理、義務、資質向上に関する事項などが問われます。技術者倫理、安全、社会環境との調和など、技術士としての適性が問われる科目です。

    • 対策: 技術士法の条文や精神、日本技術士会が示す倫理規定などを理解することが不可欠です。過去問が非常に有効です。過去問を解き、関連する法律や規程を確認するという方法が効率的です。丸暗記ではなく、技術者としての考え方を理解するように努めましょう。

    専門科目(多肢選択式):
    受験申込時に選択した技術部門(機械部門、電気電子部門、建設部門など、20以上の部門があります)に関する専門知識と応用能力が問われます。大学の専門課程レベルの知識が問われます。

    • 対策: 自身の専門分野に特化した対策が必要です。大学時代の専門書や、関連する業界の技術標準、最新技術に関する情報などが参考になります。最も重要なのは、選択した技術部門の過去問を徹底的に解くことです。過去問を通じて出題傾向や難易度を把握し、必要な知識を補強していきます。応用問題も含まれるため、単なる知識の暗記だけでなく、考え方を理解することが大切です。

    効果的な学習方法のヒント

    1. 過去問中心の学習:
      技術士第一次試験は、過去問から類似問題や同じテーマが出題される傾向があります。日本技術士会のウェブサイトで公開されている過去問を繰り返し解くことが、最も効果的な対策と言えます。少なくとも過去5年分、可能であればそれ以上の過去問を解きましょう。
    2. 学習計画の立案:
      試験日までを見据え、各科目にどれくらいの時間を割くか、いつまでにどの範囲を終わらせるかなど、具体的な学習計画を立てましょう。特に専門科目は範囲が広いため、計画性が重要です。
    3. 参考書・問題集の活用:
      過去問で理解が追いつかない部分や、基礎知識が不足していると感じる場合は、市販の参考書や問題集を活用して補強します。技術士第一次試験対策に特化した書籍も出版されています。
    4. 予備校・通信教育の利用:
      独学が難しい場合や、体系的に学びたい場合は、技術士試験対策の予備校や通信講座を利用するのも一つの方法です。専門講師による解説や、模擬試験などが利用できます。
    5. アウトプットを意識した学習:
      参考書を読むだけでなく、問題を解く、覚えたことを書き出すなど、積極的にアウトプットを行うことで、知識の定着が高まります。
    6. 苦手分野の克服:
      模試や過去問演習で明らかになった苦手分野は、放置せず重点的に学習しましょう。ただし、すべての分野を完璧にする必要はありません。合格基準を超えることを目標とします。
    7. 本番を意識した時間配分:
      過去問を解く際には、実際の試験時間を計りながら行い、時間配分の感覚を養いましょう。

    学習期間は個人の背景知識や学習に充てられる時間によって大きく異なりますが、一般的には数ヶ月から半年程度の準備期間を設ける人が多いようです。

    試験の形式と合格基準は?

    技術士第一次試験は、筆記試験であり、全ての科目が多肢選択式(マークシート方式)で実施されます。

    試験科目、時間、解答数、合格基準

    • 共通科目:
      試験時間:1時間
      解答数:15問選択解答(全25問程度から選択)
      合格基準:満点の50%以上
    • 適性科目:
      試験時間:1時間
      解答数:全15問解答
      合格基準:満点の50%以上
    • 専門科目:
      試験時間:2時間
      解答数:25問選択解答(全35問程度から選択)
      合格基準:満点の50%以上

    重要な注意点:
    合格するためには、共通科目、適性科目、専門科目の全てにおいて、それぞれの合格基準(満点の50%以上)を満たす必要があります。いずれかの科目で基準に満たない点数があった場合、他の科目の点数が高くても不合格となります。これは「科目別合格」制度がないためです。各科目をバランス良く対策することが重要です。

    合格発表は、例年、試験実施年の12月頃に日本技術士会のウェブサイトで行われます。合格者には合格証が送付されます。

    一次試験合格後にできること、次のステップ

    技術士第一次試験に合格すると、いくつかの道が開かれます。

    • 修習技術者としての登録:
      第一次試験合格者は、日本技術士会に申請することで「修習技術者」として登録することができます。これは、技術士補となるための要件の一つです。
    • 技術士補となる:
      第一次試験合格者が、技術士登録をしている技術士を指導技術士として定め、日本技術士会に登録することで「技術士補」となることができます。技術士補は、技術士の指導の下で技術研鑽を積むことになります。
    • 技術士第二次試験の受験資格の確認:
      技術士第一次試験合格は、技術士第二次試験の受験資格の主要なルートです。第二次試験の受験には、第一次試験合格に加え、実務経験(通常4年、技術士補として指導技術士の下で修習した場合は7年未満の期間)が必要となります。合格後、自身の経歴と照らし合わせ、いつ頃第二次試験を受験できるかを確認し、準備を始めます。
    • 継続的な技術研鑽:
      第一次試験合格はあくまで技術士へのスタートラインです。合格後も、専門分野の知識・技術の向上、技術者倫理の深化など、継続的な学習と実務経験を積み重ねることが重要です。

    一次試験合格は大きな節目ですが、最終目標である技術士資格取得に向けて、着実に次のステップへ進む準備を始めましょう。第二次試験は、一次試験とは異なり、筆記試験(記述式)と口頭試験があり、より高度な専門能力や実務経験、応用能力が問われます。

    まとめ

    技術士第一次試験は、技術士を目指す上での登竜門となる国家試験です。試験の概要、受験資格、申込方法、費用、試験地、そして最も重要な学習対策について、詳細を解説しました。

    多肢選択式とはいえ、幅広い知識と技術者としての基礎、倫理観が問われるため、計画的かつ効果的な学習が不可欠です。特に過去問演習は、合格への近道と言えるでしょう。

    本記事が、技術士一次試験の受験を検討されている皆様の一助となれば幸いです。最新かつ正確な情報は、必ず公益社団法人 日本技術士会の公式ウェブサイトでご確認ください。皆様の合格を心より応援しております。


    技術士一次試験

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