技能実習生制度とは?その概要と目的

技能実習生制度は、日本の企業や個人事業主が、開発途上国等の若者を中心に一定期間(最長5年)、技能実習生として受け入れ、OJT(On-the-Job Training:実際の業務を通じた訓練)形式で技能、技術又は知識を修得・習熟させるための制度です。これは、日本の優れた技能等を移転し、実習生の母国の経済発展を担う人材育成に貢献することを目的としています。

制度は「技能実習計画」に基づいて実施され、受け入れ企業は実習生に対して適切な労働環境、労働条件、そして計画に沿った技能等の習得機会を提供することが義務付けられています。制度の運営には、実習生を受け入れる「実習実施者」(企業など)と、実習実施者をサポート・監督する「監理団体」が関わります。

技能実習生になるには?(送り出し国・要件)

技能実習生として日本に来るためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

対象となる送り出し国

この制度は、日本と「二国間協定」を締結している国々を中心に実施されています。主な送り出し国には、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、カンボジア、ミャンマー、ラオス、ネパール、バングラデシュ、スリランカ、モンゴル、ウズベキスタンなどが含まれます。各国との協定によって制度の運用方法や対象職種が異なる場合があります。

実習生本人の要件

実習生となる個人も、概ね以下の要件を満たす必要があります。

  • 年齢:通常、18歳以上であること。年齢の上限は職種や送り出し機関によって異なる場合がありますが、概ね30代後半までが多いです。
  • 学歴・職歴:母国で従事しようとする業務と同種の業務に現在従事しているか、過去に従事した経験があること、または関連する科目を専攻したことなどが求められる場合があります。
  • 日本での実習経験:過去に技能実習生として日本で実習した経験がないこと(例外規定あり)。
  • 健康状態:日本での実習に支障がない健康状態であること。
  • 帰国意欲:実習終了後、母国への帰国意思があること。
  • 日本語能力:職種や送り出し機関によっては、入国前に基本的な日本語能力(挨拶、簡単な日常会話など)が求められます。

これらの要件は、送り出し国の機関や日本の受け入れ機関・企業によって詳細が定められます。

実習生を受け入れるには?(受け入れ機関・企業の要件)

日本で技能実習生を受け入れることができるのは、法務省と厚生労働省から許可を受けた「実習実施者」(企業や個人事業主)です。実習実施者は、単独型と団体監理型のいずれかの形態で実習生を受け入れます。

実習実施者(受け入れ機関・企業)の要件

  • 適切な施設・設備:技能実習を行うために必要な施設や設備(作業場、機械など)を有していること。
  • 住居の確保:実習生のための適切な宿舎を用意すること。原則として、実習実施者の敷地外に確保する必要がありますが、例外もあります。
  • 実習指導員・生活指導員の配置:技能実習を適切に指導する実習指導員と、実習生の生活をサポートする生活指導員を配置すること。どちらも、実習を行う業務や実習生の生活に関する十分な知識・経験を持つ人物である必要があります。
  • 技能実習計画の作成・認定:実習の内容、期間、指導体制、評価方法などを具体的に記した「技能実習計画」を作成し、外国人技能実習機構(ORIT)の認定を受けること。
  • 労働関係法令の遵守:労働基準法、最低賃金法などの労働関係法令を遵守していること。過去に重大な法令違反がないこと。
  • 経営状況:技能実習を継続的に実施できる経営基盤があること。

監理団体とは?(団体監理型の場合)

多くの企業は、中小企業等協同組合、商工会議所、農業協同組合といった非営利の「監理団体」を通じて実習生を受け入れる「団体監理型」を採用しています。監理団体は以下の役割を担います。

  • 送出し機関との連携

    :送り出し国にある送出し機関と連携し、実習生の募集・選抜・出国前講習などを行います。

  • 実習実施者のサポート

    :技能実習計画の作成支援、入国・在留資格に関する申請サポートなどを行います。

  • 実習実施者への監査・指導

    :実習実施者が適切に技能実習を行っているか、労働条件等が守られているかを定期的に監査・指導します。

  • 実習生へのサポート

    :入国後の講習実施、生活相談対応、日本語教育支援などを行います。

実習実施者は、監理団体に対して監理費を支払います。

どのような職種・作業がある?

技能実習制度で認められている職種・作業は限定されています。法務省令で定められた約80職種150作業(2023年10月時点)が対象となります。これらは主に日本の産業界で人手不足が指摘されている分野や、母国への技能移転が有効であると考えられる分野です。

主な対象職種・作業の例:

  • 農業分野

    :耕種農業(施設園芸、畑作・野菜、果樹)、畜産農業(養豚、養鶏、酪農)

  • 漁業分野

    :漁船漁業(まぐろはえ縄漁業、かつお一本釣り漁業など)、養殖業(ほたてがい・かき養殖作業など)

  • 建設分野

    :大工、左官、とび、配管、内装仕上げ、電気工事、土木工事など

  • 食品製造分野

    :飲食料品製造業(清酒製造、パン・菓子製造、食肉加工、水産練り製品製造など)

  • 繊維・衣服分野

    :紡織、染色、ニット製品製造、婦人子供服製造、寝具製造など

  • 機械・金属分野

    :鋳造、鍛造、溶接、プレス加工、金属プレス加工、めっき、機械加工、工業包装など

  • その他

    :プラスチック成形、家具製作、印刷、製本、ゴム製品製造、陶磁器製品製造、自動車整備、ビルクリーニング、介護など

受け入れを希望する企業は、これらの対象職種・作業のいずれかに該当する必要があります。

実習期間はどれくらい?

技能実習の期間は、計画内容によって異なりますが、最長で5年間です。実習期間は以下の3つの段階に分けられます。

  1. 第1号技能実習(1年目)

    :入国後、日本語や日本の生活習慣、法的保護に関する講習(通常1ヶ月程度)を受けた後、技能実習計画に基づき実習を行います。

  2. 第2号技能実習(2年目・3年目)

    :1年目の実習を修了し、技能評価試験(基礎級または随時3級)に合格すると移行できます。より実践的な技能の習得を目指します。

  3. 第3号技能実習(4年目・5年目)

    :3年目の実習を修了し、技能評価試験(専門級または随時2級)に合格するなど、要件を満たした場合に移行できます。より高度な技能の習得と、母国の後進指導のための知識習得を目指します。第3号に移行するには、原則として一度帰国する必要があります。

企業は、実習生が各段階の要件を満たした場合に、次の段階へ移行するための手続きを行います。

制度の具体的な流れ(手続き)

技能実習生を受け入れるまで、そして実習中の手続きは多岐にわたります。

実習生側の流れ(一般的な例)

  1. 募集・選抜

    :母国の送出し機関を通じて、希望する職種の募集に応募します。書類選考や面接、筆記試験、実技試験などが行われます。

  2. 事前講習

    :内定後、母国で日本語や日本の文化、生活習慣、技能実習制度に関する事前講習を受けます。

  3. 入国準備

    :日本の受け入れ機関・企業が、在留資格認定証明書の申請などの手続きを進めます。証明書が交付されたら、母国の日本大使館・総領事館で査証(ビザ)を申請します。

  4. 来日・入国後講習

    :査証を取得して日本に入国します。入国後、約1ヶ月程度、日本の法令や生活ルール、日本語、労働安全衛生などに関する講習を受けます。

  5. 技能実習開始

    :講習後、受け入れ企業に配属され、技能実習計画に基づいたOJTが開始されます。

  6. 帰国

    :実習期間が終了したら、原則として母国に帰国します。

受け入れ側の流れ(団体監理型の場合の一般的な例)

  1. 監理団体との契約

    :技能実習生を受け入れたい企業は、監理団体と契約を結びます。

  2. 求人の依頼・選考への参加

    :希望する職種、人数、条件などを監理団体を通じて送り出し機関に伝え、実習生の募集を行います。現地での面接などに参加し、実習生を選抜します。

  3. 技能実習計画の作成・認定申請

    :選抜した実習生について、具体的な実習内容、期間、場所、指導体制、評価方法などを盛り込んだ技能実習計画を作成し、外国人技能実習機構(ORIT)に認定申請を行います。監理団体が作成をサポートします。

  4. 在留資格認定証明書の申請

    :ORITの計画認定が下りたら、実習生の在留資格認定証明書交付を地方出入国在留管理官署に申請します。これも監理団体が代行することが多いです。

  5. 実習生受け入れ・入国後講習手配

    :証明書交付後、実習生の来日準備を進め、入国後講習を行います。

  6. 技能実習実施・監理・監査

    :実習計画に基づき技能実習を実施します。監理団体は定期的に実習実施者を訪問し、実習状況や労働条件、生活環境などを監査・指導します。実習実施者は監理団体の指導に従う義務があります。

  7. 各種手続き

    :定期的な報告書の提出、技能評価試験の受験手続き、在留期間更新や段階移行の手続きなどを行います。

  8. 帰国支援

    :実習期間終了に伴う帰国手続きや、母国への送り出しを支援します。

単独型の場合は、これらの手続きを企業自身が行うことになります。

費用と賃金について

技能実習制度には、受け入れ側と実習生側双方に様々な費用が発生します。

受け入れ側の費用

  • 監理費(団体監理型)

    :監理団体に支払う費用です。実習生一人あたり月額数万円が一般的ですが、監理団体によって異なります。

  • 送出し機関への費用

    :送り出し機関との契約に基づき支払う費用です。

  • 給与・賃金

    :実習生は労働者として扱われるため、日本の労働基準法に基づいた給与・賃金を支払う必要があります。

  • 住居費

    :実習生に提供する宿舎の家賃、光熱費などです。実習生から実費相当分を徴収することは可能ですが、不当に高額であってはなりません。

  • 法定福利費

    :健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などの社会保険料、労働保険料です。

  • 渡航費用

    :通常、実習生の帰国時の渡航費用は受け入れ側が負担します。来日時の費用負担については、取り決めによります。

  • 入国後講習費用

    :入国後の講習にかかる費用(教材費、滞在費など)です。

  • 技能検定・評価試験費用

    :実習生が受験する試験の費用です。

  • その他

    :実習中の交通費、健康診断費用、日本語教育費用(必要な場合)など。

実習生の費用負担

  • 送出し機関への費用

    :母国での事前講習費、手数料などがかかる場合があります。これが過度に高額であることが問題視されることもあります。

  • 来日時の渡航費用

    :送り出し機関との契約によりますが、実習生が一時的に負担することがあります。

  • 生活費

    :食費、通信費、日用品費など、来日後の個人的な生活費は実習生が負担します。

  • 住居費の一部

    :受け入れ側が用意した宿舎に対し、実費相当分の家賃や光熱費を支払う場合があります。

賃金・給与

技能実習生は、日本の労働関係法令が適用される労働者です。したがって、労働時間、休憩、休日、時間外労働に関する規則が適用され、最低賃金法に基づいた賃金が支払われなければなりません。

最低賃金の遵守

支払われる賃金は、実習実施者の所在地を管轄する都道府県の最低賃金以上の額である必要があります。これは時間給で定められており、月給制の場合も計算上、最低賃金を下回らないようにする必要があります。

また、時間外労働や休日労働を行った場合には、割増賃金を支払う必要があります。賃金から控除できるのは、税金、社会保険料、および労使協定で定められた項目(宿舎費、食費など)に限られ、それも実費相当分など適正な範囲内である必要があります。

実習生へのサポート体制

実習生が安心して日本で生活し、実習に専念できるよう、様々なサポート体制が設けられています。

  • 入国後講習

    :来日後約1ヶ月間、日本語、日本の習慣、労働関係法令、入管法令、実習生の法的保護に必要な情報(相談窓口など)について集中的な講習が行われます。

  • 生活指導・相談体制

    :受け入れ企業には生活指導員が配置され、日常生活に関する助言やサポートを行います。また、監理団体も定期的に実習実施者を訪問し、実習生からの相談に応じたり、日本語での相談が難しい場合は通訳を手配したりします。外国人技能実習機構(ORIT)や法テラスなども相談窓口を設けています。

  • 病気や怪我の場合

    :技能実習生は健康保険、厚生年金、労働者災害補償保険(労災保険)などに加入することが義務付けられています。これにより、病気や怪我をした場合、医療費の自己負担が軽減されたり、労災が適用されたりします。

  • 日本語教育

    :入国後講習だけでなく、実習期間中も監理団体や実習実施者が日本語学習の機会を提供することがあります。

制度を取り巻く具体的な状況(課題など)

技能実習制度は日本の技能移転と国際貢献を目的としていますが、実際の運用においてはいくつかの課題が指摘されています。

よく聞かれる問題点

  • 労働条件の問題

    :最低賃金を下回る賃金しか支払われない、不当な残業が多い、パワハラ・セクハラがある、などの労働条件に関する問題が報告されることがあります。

  • 高額な費用負担

    :母国の送出し機関に支払う手数料が過度に高額で、多額の借金を背負って来日する実習生がいることが問題視されています。

  • 失踪・不法残留

    :劣悪な労働環境や借金苦などから逃れるために失踪し、不法残留となるケースがあります。

  • 転職の制限

    :原則として、実習期間中に受け入れ先企業を変更することが認められていないため、問題があっても容易に逃れられない状況が生じやすいという側面があります。

制度の適切な運用に向けて

外国人技能実習機構(ORIT)は、実習計画の認定や実習実施者・監理団体への監査を通じて、制度の適正化を図っています。問題が確認された場合は、改善指導、計画認定の取消し、実習実施者・監理団体の許可取消しといった厳しい措置が取られます。

また、人権侵害行為に対しては、警察との連携を含め、厳正に対処する体制が取られています。しかし、問題の根絶には、関係者全員が制度の目的を理解し、ルールを遵守することが不可欠です。

実習終了後の進路

技能実習期間が終了した場合、実習生は原則として母国に帰国することになります。しかし、一部の実習生は日本に引き続き滞在し、働く道を選ぶことができます。

  • 特定技能への移行

    :技能実習2号または3号を良好に修了した実習生は、「特定技能」という別の在留資格へ移行できる場合があります。特定技能は、特定の産業分野において即戦力となる外国人材を受け入れるための制度で、技能実習よりも長い期間(最長5年、特定技能2号は更新可能で上限なし)の就労が可能です。特定技能への移行には、通常、関連する分野の技能試験と日本語試験に合格する必要がありますが、技能実習2号を良好に修了した場合は、試験が免除される分野があります。

  • 母国での活躍

    :多くの実習生は母国に帰国し、日本で培った技能や経験を活かして、企業への就職や起業、後進の指導などで活躍しています。これが制度本来の目的です。

技能実習制度は、日本と開発途上国双方にとって意義を持つ一方で、その複雑な仕組みと運用から様々な課題も抱えています。関係者が制度を深く理解し、適切な対応を行うことが、制度の健全な維持と実習生の保護のために重要です。


技能実習生制度

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