日本の医療保険制度には様々な種類がありますが、満75歳になると、それまで加入していた健康保険(国民健康保険、被用者保険など)から切り替わり、後期高齢者医療制度に加入することになります。この制度への加入を証明するのが【後期高齢者保険証】です。ここでは、この保険証と制度について、具体的な疑問に答える形で詳しく解説します。
【後期高齢者医療制度】とは?そして【後期高齢者保険証】とは?
後期高齢者医療制度は、主に75歳以上の方を対象とした医療保険制度です。少子高齢化が進む中で、高齢世代と現役世代の医療費負担を明確にし、持続可能な医療保険制度を維持するために平成20年(2008年)4月に創設されました。この制度は、都道府県ごとに設置されている
そして、
誰が【後期高齢者医療制度】の対象となるのですか?
後期高齢者医療制度の対象者は以下の通りです。
75歳以上の方 :75歳の誕生日を迎える日から、自動的に後期高齢者医療制度の被保険者となります。加入するための手続きは原則として不要です。65歳から74歳までの方で、一定の障害があると広域連合の認定を受けた方 :ご本人の申請により、後期高齢者医療制度に加入することができます。この「一定の障害」には、国民年金法などにおける1級または2級の障害、身体障害者手帳の1級、2級、3級、4級の一部などが含まれます。認定を受けるためには、お住まいの市区町村の窓口で申請が必要です。
対象となる方は、それまで加入していた健康保険(国民健康保険、被用者保険、被扶養者など)から脱退し、後期高齢者医療制度に移行します。
【後期高齢者保険証】はいつ、どこで、どのように交付されますか?
【後期高齢者保険証】は、対象となった方に
75歳の誕生日を迎える方 :75歳になる誕生月の前月下旬から誕生月上旬にかけて、お住まいの市区町村からご自宅に簡易書留などで郵送されることが一般的です。手続きは不要です。65歳~74歳で一定の障害認定を受けた方 :障害認定の申請を行い、認定を受けた後に郵送されます。申請から郵送までにはある程度の日数がかかります。他の都道府県から転入してきた方 :転入手続き後、新しい保険証が郵送されます。
発送元は後期高齢者医療広域連合ですが、市区町村の窓口が発行や郵送に関する業務を代行している場合が多いです。新しい保険証が届いたら、記載内容(氏名、住所、生年月日など)に誤りがないか確認しましょう。
【後期高齢者医療保険料】はいくらですか?どのように決まりますか?
後期高齢者医療制度の保険料は、被保険者
均等割額 :被保険者全員 が等しく負担する金額です。所得に関わらず定額です。所得割額 :被保険者の前年の所得に応じて計算される金額です。所得が高いほど保険料も高くなります。
具体的な保険料額は、お住まいの都道府県の後期高齢者医療広域連合ごとに異なりますが、計算の基礎となるのは前年の所得(住民税が確定した後)です。通常、毎年7月頃に新しい保険料額が決定し、通知されます。
保険料の納付方法は、主に以下の2つです。
特別徴収 :年金額が年額18万円以上など、一定の条件を満たす方は、年金から自動的に差し引かれます(年6回)。普通徴収 :特別徴収の対象とならない方や、申し出により普通徴収を選択した方は、納付書や口座振替で納めます(通常、年8回)。
所得が低い方などに対しては、
医療機関での窓口負担(自己負担割合)はいくらですか?
後期高齢者医療制度における医療費の自己負担割合は、原則として
1割負担 :大半の方がこの割合になります。2割負担 :令和4年(2022年)10月1日から、現役並み所得者のうち、比較的所得が低い方の一部が対象となりました。被保険者の課税所得や年金収入などから判断されます。(単身世帯で年金収入とその他の合計所得が200万円以上など)3割負担 :現役並み所得者(住民税課税所得が145万円以上の方で、かつ収入が単身世帯で年収383万円以上、複数世帯で合計年収520万円以上など)が対象となります。
自己負担割合は、毎年8月1日(一部の方は10月1日)に前年の所得に基づき見直され、新しい負担割合が記載された保険証が交付されます。
重要
医療機関を受診する際には、必ず【後期高齢者保険証】を提示してください。保険証の提示がない場合、医療費を全額自己負担することになる場合があります。後日保険証を持参すれば自己負担割合との差額は払い戻されますが、一時的に大きな金額を支払う必要が出てきます。
【後期高齢者保険証】はどのように使いますか?
使い方は、これまでの健康保険証と基本的に同じです。
- 病気やケガで医療機関(病院、診療所、歯科、薬局など)を受診する際、受付窓口で【後期高齢者保険証】を提示します。
- 医療機関は保険証を確認し、被保険者情報や自己負担割合を確認します。
- 診療や治療を受け、会計時に定められた自己負担割合に応じた医療費を支払います。
近年では、【後期高齢者保険証】と「高齢者受給者証」が一体となったカードが交付されている場合が多いです。この一体型保険証には、自己負担割合が明記されています。
また、将来的にはマイナンバーカードが保険証として利用できるようになります(マイナ保険証)。マイナ保険証を利用すれば、保険証を提示しなくても顔認証などでスムーズに受付できる医療機関が増えています。ただし、マイナ保険証を利用できない医療機関もまだあるため、当面は【後期高齢者保険証】も携帯することをお勧めします。
【後期高齢者保険証】の有効期限や、紛失・破損した場合の手続きは?
【後期高齢者保険証】の有効期限は、通常
もし【後期高齢者保険証】を紛失したり、破れて使えなくなったりした場合は、
どこで手続きをするか :お住まいの市区町村の窓口 (保険年金課など)が受付窓口となっています。手続きに必要なもの :- ご本人の身元確認ができるもの(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- 印鑑(認印で構いません)
- もしあれば、破損した保険証
- 手続きに来る方がご本人以外の場合は、代理権を確認できる書類(委任状など)や代理人の身元確認書類も必要です。
再交付までの期間 :原則として即日交付されることが多いですが、市区町村によっては後日郵送となる場合もあります。
盗難の場合は、警察署に届け出ることも推奨されます。
【後期高齢者医療制度】で受けられる医療サービスや給付は?
後期高齢者医療制度で受けられる医療サービスは、基本的な健康保険と大きな違いはありません。
一般的な診療・治療 :病気やケガの診察、検査、投薬、処置、手術など。入院医療 :病気やケガによる入院。歯科医療 :歯科での診察、治療、入れ歯など。訪問看護 :医師の指示による自宅での看護。療養費の支給 :急病などやむを得ず保険証を持たずに受診した場合や、医師が必要と認めたコルセットなどの治療用装具を作製した場合などに、後日申請により自己負担分を除いた額の払い戻しを受けられます。
ただし、以下のようなものは保険給付の対象とならないのが一般的です。
- 健康診断、人間ドック
- 美容整形
- 予防接種(一部対象となる場合を除く)
- 差額ベッド代などの選定療養費
- 仕事中の傷病(労災保険が適用されます)
高額療養費制度について
後期高齢者医療制度には
例えば、自己負担限度額が5万円の方の場合、月の医療費自己負担額が10万円になったとすると、10万円から5万円を引いた5万円が払い戻されます。これにより、万が一高額な医療を受けても、家計への負担が過度にならないよう配慮されています。
自己負担限度額は、現役並み所得者、一般、低所得者などの所得区分によって細かく定められています。また、同じ世帯内に後期高齢者医療制度の被保険者が複数いる場合は、自己負担額を合算することができます。高額療養費の払い戻しは、自動的に行われる場合と、申請が必要な場合がありますので、詳細はお住まいの市区町村または広域連合にご確認ください。
その他にも、高額介護合算療養費制度(医療費と介護費の年間自己負担額を合算して限度額を超えた場合に払い戻される制度)や、入院時の食事代、居住費に関する標準負担額減額制度など、様々な給付があります。
まとめ
【後期高齢者保険証】は、75歳以上の方(または一定の障害を持つ65歳~74歳の方)が医療を受ける際に不可欠なものです。自動的に交付され、毎年更新されること、保険料が前年の所得で決まること、医療費の自己負担割合が所得によって1割・2割・3割となること、そして高額療養費制度があることなど、その内容は多岐にわたります。ご自身の保険証を大切に保管し、記載内容や制度について不明な点があれば、お住まいの市区町村の窓口に相談してみましょう。