税金計算において、所得から差し引くことができる様々な「控除」がありますが、その中でも最も基本的で多くの人に適用されるのが「基礎控除額」です。これは、所得の種類や有無にかかわらず、納税者すべてに一律に適用される(ただし、合計所得金額による制限があります)という点で非常に重要な控除です。

この記事では、「基礎控除額」について、それが「何なのか」「なぜ存在するのか」「いくらなのか」「どのように適用されるのか」といった、誰もが疑問に思うであろう具体的な側面に焦点を当て、詳しく解説します。

【基礎控除額】それは一体「何」ですか?

簡単に言うと、基礎控除額とは、所得税や住民税を計算する際に、所得から無条件に差し引くことができる、いわば「最低限の生活を営むために必要な経費」とみなされる固定の金額です。この金額を所得から差し引くことで、課税される所得(課税所得)が減り、結果として税負担が軽減されます。

具体的には、1年間の総収入から必要経費や給与所得控除などを差し引いて計算された「所得金額」から、この基礎控除額を差し引きます。その後、医療費控除や社会保険料控除など、他の様々な所得控除がある場合はそれらも差し引き、最終的な課税所得が計算されます。

【基礎控除額】「なぜ」存在するのですか?

基礎控除額が存在する主な理由は、税負担の公平性を保つため、そして、所得にかかわらず、国民が最低限の生活を送るために必要な部分には税金を課さない、という考え方に基づいています。

税金は、個人の「担税力」(税金を負担する能力)に応じて課されるべきだ、という考え方があります。しかし、たとえ少額の所得しかなくても、生活のために最低限必要なお金は存在します。基礎控除額は、この最低限必要な部分に税金がかからないようにすることで、低所得者層の税負担を軽減し、税制度全体の公平性を高める役割を果たしています。

つまり、「なぜ」基礎控除額があるのかというと、それは納税者全員に対して、生活の基礎となる一定額については税金の対象から外すことで、公平かつ人道的な税制度を実現するため、と言えます。

【基礎控除額】「どこ」で適用され、「どこ」で確認できますか?

基礎控除額は、主に以下の税金計算に適用されます。

  • 所得税(国税)
  • 住民税(地方税 – 都道府県民税・市町村民税)

これらの税金を計算する過程で、あなたの所得から自動的に、あるいは申告によって、基礎控除額が差し引かれます。

では、「どこ」でこの基礎控除額が適用されていることを確認できるのでしょうか?

年末調整や確定申告の書類

  • 会社員の方であれば、年末に会社が行う「年末調整」の結果が記載された源泉徴収票で、基礎控除が考慮された後の課税所得が確認できます。(源泉徴収票には直接「基礎控除額○○円」と記載される欄は通常ありませんが、課税所得の計算過程で差し引かれています。)
  • ご自身で確定申告を行う方(自営業者やフリーランス、複数の収入がある方など)は、確定申告書の特定の欄に、計算された基礎控除額を記載し、それを基に税額を計算します。確定申告書A様式(現在は廃止され、B様式に統合)や確定申告書B様式の所得控除に関する欄、およびその計算の根拠となる「所得税額を計算を計算する際の〇〇」といった補足書類で確認できます。

税務署や市区町村役場の通知

  • 所得税の納税通知書や、住民税の税額決定通知書などでも、基礎控除が適用された結果としての課税所得や税額を確認できます。

もし具体的な金額や適用状況が不明な場合は、管轄の税務署(所得税)や、お住まいの市区町村役場の住民税担当窓口に問い合わせることで確認できます。

【基礎控除額】「いくら」ですか?(令和2年分以降)

基礎控除額は、税法改正によって変更されることがあります。特に、令和2年分(2020年分)からは、給与所得控除額の見直しと合わせて、基礎控除額の金額が変更され、さらに「納税者本人の合計所得金額」に応じて控除額が変動するようになりました。

現在の基礎控除額(令和2年分以降)

所得税と住民税で金額が異なります。また、あなたの「合計所得金額」によって、適用される控除額が変わります。

所得税の基礎控除額

  • 納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合:48万円
  • 納税者本人の合計所得金額が2,400万円超 2,450万円以下の場合:32万円
  • 納税者本人の合計所得金額が2,450万円超 2,500万円以下の場合:16万円
  • 納税者本人の合計所得金額が2,500万円超の場合:0円

住民税の基礎控除額

  • 納税者本人の合計所得金額が2,400万円以下の場合:43万円
  • 納税者本人の合計所得金額が2,400万円超 2,450万円以下の場合:29万円
  • 納税者本人の合計所得金額が2,450万円超 2,500万円以下の場合:15万円
  • 納税者本人の合計所得金額が2,500万円超の場合:0円

合計所得金額が2,400万円以下の多くの方にとっては、所得税の基礎控除額は48万円、住民税の基礎控除額は43万円となります。

合計所得金額とは?
給与所得、事業所得、不動産所得など、各種所得金額を合計した金額から、純損失や雑損失の繰越控除を適用した後の金額を指します。給与所得者の場合、給与の源泉徴収票に記載されている「給与所得控除後の金額」がこれにあたります(他の所得がない場合)。

改正前(令和元年分まで)の基礎控除額との違い

改正前は、所得税の基礎控除額は一律38万円、住民税の基礎控除額は一律33万円でした。所得による変動はありませんでした。

改正により、多くの納税者(合計所得金額が2,400万円以下の方)にとっては、所得税の基礎控除額が10万円増額されました。これは、給与所得控除額などが一律10万円(上限あり)引き下げられたこととセットで行われたもので、税負担が大きく変わらないように配慮されています。

しかし、高所得者(特に合計所得金額が2,500万円を超える方)については、基礎控除額がゼロとなり、実質的に増税となっています。

【基礎控除額】それは「どのように」適用されますか?

基礎控除額は、税金を計算する「所得控除」の一つとして、所得から差し引かれます。その具体的な適用方法は、あなたの働き方や収入の種類によって異なります。

会社員・公務員など給与所得者の場合

多くの会社員や公務員の方は、年末に会社が行う「年末調整」によって基礎控除額が適用されます。年の途中で会社に提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には、基礎控除に関する事項を記載する欄があり、あなたの合計所得金額の見積額に基づいて、会社が基礎控除額を計算し、年末調整で反映してくれます。原則として、ご自身で特別な手続きを行う必要はありません。

ただし、年収が2,000万円を超える場合や、年末調整では控除できない項目がある場合、または複数の勤務先から給与を得ている場合などは、ご自身で確定申告を行う必要があります。その確定申告の過程で基礎控除額を適用します。

自営業者・フリーランス・年金受給者などで確定申告が必要な場合

ご自身で確定申告を行う場合は、確定申告書を作成する際に、所得金額を計算した後、所得控除の項目として基礎控除額を記入します。現在の確定申告書B様式では、「所得から差し引かれる金額」の欄にある「基礎控除」の行に、ご自身の合計所得金額に応じた基礎控除額を記載します。確定申告書を作成するためのソフトや国税庁の確定申告書作成コーナーを利用する場合、所得金額等を入力すれば、基礎控除額が自動的に計算・適用されることがほとんどです。

住民税の場合

住民税は、前年の所得に基づいて計算されます。確定申告を行った方や年末調整を受けた方は、その情報が市区町村に連携され、住民税の計算が行われます。この際にも、前年の合計所得金額に基づいた住民税の基礎控除額(所得税とは金額が異なります)が適用されます。特に手続きをする必要はありません。

つまり、適用自体は自動的に行われるか、確定申告の際に他の所得控除と合わせて申告する、という形になります。

【基礎控除額】「どうすれば」最大限に活用できますか?

基礎控除額は、納税者であれば原則として誰でも適用できる普遍的な控除です。合計所得金額が2,400万円以下の多くの人にとっては、最大限の金額(所得税48万円、住民税43万円)が自動的に適用されます。

したがって、「どうすれば」という点において、特別な「活用方法」を意識する必要があるのは、主に以下のようなケースです。

1. 合計所得金額が2,400万円を超える可能性がある場合

ご自身の所得が、基礎控除額が段階的に減額される、あるいはゼロになるライン(2,400万円、2,450万円、2,500万円)に近い、または超える可能性がある場合は、ご自身の正確な合計所得金額を把握することが重要です。これにより、適用される基礎控除額がいくらになるかを正確に計算できます。高額所得者にとっては、基礎控除額が減る・無くなることが税負担増に直結するため、他の所得控除や税額控除が適用できるかなどをより詳細に検討する必要があります。

2. 年末調整や確定申告を正確に行うこと

基礎控除は非常に基本的な控除ですが、正確な税額計算のためには、合計所得金額を正しく算出し、それに合わせた基礎控除額を適用することが前提となります。会社員の方であれば年末調整を正確に、自営業者等であれば確定申告を正確に行うことが、「最大限の活用」というよりは「正しい適用」のために不可欠です。

基礎控除額自体は、何か特定の行動によって「増やす」ことができる性質のものではありません。しかし、ご自身の所得状況を正確に把握し、他の適用可能な所得控除や税額控除を漏れなく申告することで、基礎控除と合わせて全体として適正な税負担とすることができます。

基礎控除額は、すべての納税者に与えられた基本的な権利のようなものです。その仕組みと金額を理解しておくことは、ご自身の税金について正しく把握するための第一歩となります。

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