基礎控除とは? 基礎控除所得制限の基本

所得税や住民税を計算する際に、税負担を軽減するための様々な「所得控除」という制度があります。所得控除は、納税者の状況(扶養親族の有無、医療費の支出、社会保険料の支払いなど)に応じて、所得から一定額を差し引くことができるものです。

数ある所得控除の中でも、最も基本的なものの一つが「基礎控除」です。
基礎控除は、特定の条件を満たす必要がなく、原則として日本の所得税・住民税の納税義務がある全ての個人に適用される控除です。この控除があることで、所得が低い人ほど税負担が軽くなる、あるいは非課税となる仕組みになっています。

かつては、この基礎控除は所得金額に関わらず一律の金額でした。しかし、税制改正により、高所得者については基礎控除額が段階的に減額されたり、最終的にはゼロになったりする仕組みが導入されました。これが「基礎控除所得制限」です。
つまり、基礎控除所得制限とは、納税者の「合計所得金額」に応じて、受けられる基礎控除の金額に上限や減額の仕組みが設けられていることを指します。

基礎控除所得制限は「なぜ」存在するのか? その目的

基礎控除に所得制限が設けられた主な理由は、税負担の公平性を高めるためです。

  • 税負担の公平化: 高所得者と低所得者では、税金を負担する能力に大きな差があります。基礎控除は、本来すべての納税者が生活を送る上で最低限必要な所得には税金をかけない、という考え方に基づくものです。しかし、極めて高い所得がある方にとっては、この一律の控除の必要性が相対的に低いと考えられます。所得制限を設けることで、税負担能力の高い高所得者には、その能力に応じた負担を求め、税制全体の公平性を図ることが目的です。
  • 税収の確保: 少子高齢化が進む中で、国の税収を安定的に確保する必要性があります。基礎控除に所得制限を設けることで、一定以上の所得がある層からの税収を増やす効果があります。
  • 他の税制改正とのバランス: 基礎控除の所得制限は、給与所得控除の見直しなど、他の所得控除の改正とセットで行われました。これらの改正全体で、働き方などによらない公平な税負担を目指す流れの一環として位置づけられています。

このように、基礎控除所得制限は、特に高所得者に対して、他の所得層とのバランスを取りながら、より公平な税負担を求めるために導入された制度です。

基礎控除所得制限は「いくらから」始まる? 金額と段階

基礎控除の所得制限は、納税者の「合計所得金額」が一定額を超える場合に適用されます。所得税と住民税で、基礎控除の金額自体は異なりますが、所得制限が始まる基準となる合計所得金額は同じです。

基準となる合計所得金額と、それに応じた基礎控除額(所得税の場合)は以下の通りです。

所得税の基礎控除額

  • 合計所得金額が2,400万円以下の場合:
    基礎控除額 48万円
    (所得制限の影響を受けず、満額の基礎控除が受けられます)
  • 合計所得金額が2,400万円超 2,450万円以下の場合:
    基礎控除額 32万円
    (合計所得金額が2,400万円を超える額に応じて減額されます)
  • 合計所得金額が2,450万円超 2,500万円以下の場合:
    基礎控除額 16万円
    (さらに減額されます)
  • 合計所得金額が2,500万円超の場合:
    基礎控除額 0円
    (基礎控除は適用されません)

住民税の基礎控除額

住民税の基礎控除額は、所得税より5万円少ない金額ですが、所得制限の基準となる合計所得金額のラインは所得税と同じです。

  • 合計所得金額が2,400万円以下の場合:
    基礎控除額 43万円
  • 合計所得金額が2,400万円超 2,450万円以下の場合:
    基礎控除額 29万円
  • 合計所得金額が2,450万円超 2,500万円以下の場合:
    基礎控除額 15万円
  • 合計所得金額が2,500万円超の場合:
    基礎控除額 0円

このように、合計所得金額が2,400万円を超えるかどうかで、基礎控除の適用金額が大きく変わる点がポイントです。

基礎控除所得制限は「どうやって」適用される? 計算方法

基礎控除所得制限を理解する上で重要なのは、「合計所得金額」がどのように計算されるかです。

「合計所得金額」とは?

ここでいう「合計所得金額」とは、以下のような各種所得の金額を合計したものです。

  • 利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得

これらの所得は、それぞれ計算方法が定められています。例えば、給与所得であれば「給与所得控除」を差し引いた後の金額、事業所得であれば収入から必要経費を差し引いた金額などです。これらの所得の金額を合計したものが「合計所得金額」となります。
ただし、所得税においては、

  • 繰越控除(純損失の繰越控除など)を適用する前の金額であること
  • 特定の上場株式等の配当所得や譲渡所得など、分離課税で申告したものの一部は、この合計所得金額に含めない選択ができる場合があること

などの細かなルールがあります。一般的には、給与所得や事業所得などが主な要素となります。

基礎控除額の計算方法

基礎控除額自体を計算するというよりは、計算した「合計所得金額」を前述の所得制限の基準(2,400万円、2,450万円、2,500万円)に当てはめて、適用される基礎控除額(48万円、32万円、16万円、0円)を特定する、という流れになります。

例:

納税者Aさんの合計所得金額が 2,300万円 だった場合 → 2,400万円以下なので、基礎控除額は 48万円(所得税)

納税者Bさんの合計所得金額が 2,430万円 だった場合 → 2,400万円超 2,450万円以下なので、基礎控除額は 32万円(所得税)

納税者Cさんの合計所得金額が 2,550万円 だった場合 → 2,500万円超なので、基礎控除額は 0円(所得税)

このように、合計所得金額がどの区分に該当するかによって、自動的に基礎控除の金額が決まります。

税額計算への影響

計算された基礎控除額は、「所得控除」として合計所得金額から差し引かれます。その結果、「課税所得金額」が算出されます。

課税所得金額 = 合計所得金額 – 所得控除の合計額(基礎控除、社会保険料控除、配偶者控除など)

そして、この課税所得金額に所得税率を掛けて税額が計算されます。基礎控除が所得制限によって減額されたりゼロになったりすると、その分だけ課税所得金額が増えるため、結果として所得税や住民税の税額が増加することになります。

基礎控除所得制限の影響は「どこに」出る? 誰が関係する?

基礎控除所得制限の影響は、主に以下の納税者や状況に現れます。

  • 合計所得金額が2,400万円を超える高所得者:
    この制限が直接的に影響するのは、合計所得金額が2,400万円を超える個人です。所得が増えるにつれて基礎控除が減額・消失するため、その分だけ税負担が増加します。
  • 扶養親族等がいる納税者:
    基礎控除所得制限の導入と同時に、配偶者控除や扶養控除などの他の所得控除にも所得制限が設けられました(厳密には、控除を受ける側の合計所得金額や、納税者本人の合計所得金額に応じて控除額が変動する仕組み)。したがって、高所得者本人の基礎控除が減額されるだけでなく、扶養している家族に関する控除額も影響を受ける場合があります。税制改正全体として、高所得者層の控除額を見直す流れの中にあります。
  • 確定申告を行う方:
    給与所得者であっても、年末調整で控除しきれない所得控除がある場合や、副業など他の所得がある場合は確定申告が必要です。確定申告書を作成する際には、自身の合計所得金額を正確に計算し、それに従って適用される基礎控除額を申告する必要があります。
  • 年末調整を受ける給与所得者:
    会社員などの給与所得者は年末調整で税額が計算されます。合計所得金額が2,400万円を超える場合、会社の年末調整で基礎控除額が適切に計算され、税金が徴収されます。

基礎控除所得制限は、日本の所得税・住民税の計算において、特に高所得者にとって重要な要素となります。自身の合計所得金額を確認し、どの区分に該当するかを把握することが、正確な税額計算のために不可欠です。

自身の合計所得金額や適用される基礎控除額は「どこで」確認できる?

ご自身の合計所得金額や、それに伴う基礎控除額を確認するには、いくつかの方法があります。

  1. 所得税の確定申告書:
    確定申告書を作成する過程で、各種所得金額が集計され、合計所得金額が計算されます。申告書の該当欄を見れば、ご自身の合計所得金額を確認できます。その金額を基に、適用される基礎控除額が申告書に反映されます。
  2. 源泉徴収票(給与所得者の場合):
    会社から発行される源泉徴収票には、「支払金額(年収総額)」や「給与所得控除後の金額」などが記載されています。給与所得以外の所得がない場合、「給与所得控除後の金額」がほぼ合計所得金額に近い金額となります(他の所得がある場合は合算が必要です)。ただし、源泉徴収票だけでは正確な合計所得金額は分からない場合もあります。
  3. 住民税の決定通知書:
    毎年5~6月頃に市区町村から送られてくる住民税の決定通知書にも、前年の所得に関する情報が記載されています。ここに記載されている「総所得金額」などが、基礎控除の判定に用いられる合計所得金額と関連しています。
  4. 税務当局の窓口や相談サービス:
    ご自身の所得状況が複雑な場合や、計算方法が分からない場合は、税務署の窓口や電話相談サービスに問い合わせることも可能です。確定申告時期には混雑しますが、税に関する専門的なアドバイスを受けることができます。
  5. 税理士などの専門家:
    複雑な所得がある場合や、より詳細なシミュレーションを行いたい場合は、税理士などの税務専門家に相談するのが最も確実です。正確な合計所得金額の計算や、基礎控除を含む各種所得控除の適用についてアドバイスを得られます。

特に、合計所得金額が2,400万円近辺にある方は、少しの増減で基礎控除額が変わり、税額に影響が出る可能性があるため、ご自身の所得を正確に把握することが重要です。


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