就職活動や転職活動において、複数の企業から内定を得ることは少なくありません。その中で、入社する企業を決定した際、残念ながら他の内定を辞退する必要があります。内定辞退の意思を伝える方法はいくつかありますが、特に重視されるのが「電話」での連絡です。ここでは、内定辞退の電話にまつわる様々な疑問に具体的にお答えし、失礼なく、かつ誠意をもって意思を伝えるための方法を詳しく解説します。
内定辞退の意思を伝える手段としてなぜ電話が選ばれるのか?
内定辞退の連絡手段としては、電話の他にメールなどがありますが、特に日本では電話での連絡がより丁寧で誠意が伝わるとされています。これにはいくつかの理由があります。
迅速性:
内定承諾の期限が迫っている場合や、企業側が次の採用活動に進むためにも、辞退の意思はできるだけ早く伝える必要があります。電話であれば、その場で直接担当者に意思を伝えることができ、タイムラグが発生しません。
誠意と責任:
直接相手の声を聞きながら話すことで、文書だけでは伝わりにくい感謝の気持ちや申し訳なさといった感情が伝わりやすくなります。また、企業側も時間とコストをかけて選考を行ったわけですから、その結果として辞退するとしても、直接向き合う姿勢が求められます。
確実性:
メールの場合、迷惑メールフォルダに入ってしまったり、担当者が多忙で見落としてしまったりする可能性があります。電話であれば、担当者本人に直接伝えられるため、確実に意思が伝わったことを確認できます。
以上の理由から、内定辞退の連絡は、特別な事情がない限り、電話で行うのが一般的かつ推奨される方法と言えます。
いつ、誰に、どの番号に電話をかけるべきか?
内定辞退の電話をかける際、適切なタイミング、相手、連絡先を選ぶことが重要です。
内定辞退の意思決定後、できるだけ早く
入社しないと決めたのであれば、迷わずできるだけ早く連絡しましょう。企業は、内定者からの返事を待って、入社準備を進めたり、他の応募者への対応を検討したりしています。あなたの決断が遅れることで、企業側に迷惑がかかる可能性があります。承諾期限ギリギリまで待つのは避け、遅くとも承諾期限の数日前までには連絡を入れるのがマナーです。
採用担当者または指示された連絡先へ
基本的には、あなたと最もやり取りをしていた採用担当者に連絡するのが適切です。内定通知書やこれまでのメールに、連絡すべき担当者名や部署名、電話番号が記載されているはずです。もし、内定通知書などに「辞退の場合は〇〇までメールで連絡してください」といった指示があれば、その指示に従うこともありますが、指示がない場合は電話が優先です。
会社の代表番号ではなく、採用担当直通または携帯へ
多くの場合、採用担当者の部署直通の電話番号や、携帯電話の番号を教えてもらっているはずです。代表番号にかけると、取り次ぎに時間がかかったり、担当者へスムーズに繋がらなかったりする可能性があります。可能な限り、直接連絡が取れる番号にかけましょう。もし直通番号が分からなければ、代表番号にかけ、採用担当部署の△△様に取り次いでいただくよう伝えましょう。
電話をかける前の入念な準備
電話をかける前に準備をしておくことで、落ち着いて対応でき、失礼なく意思を伝えることができます。ぶっつけ本番は避けましょう。
準備するものリスト
- 内定通知書または関連資料: 企業名、担当者名、電話番号、内定承諾期限などを確認するため。
- 話す内容のメモまたは簡単なスクリプト: 伝えるべき要点を整理し、言葉に詰まらないようにするため。
- 辞退理由(簡潔なもの): 質問された際に備え、あらかじめ考えておく。
- 感謝の言葉: 選考に時間を割いてもらったことへの感謝の気持ちを伝える言葉を準備。
- 会社の連絡先電話番号: 間違えないように確認。
- 静かで電波の良い場所: 電話中に雑音が入ったり、途切れたりしないように。
電話をかける時間帯の考慮
企業の営業時間内に電話をかけるのが大原則です。さらに、担当者が比較的忙しくない時間帯を選ぶ配慮も大切です。
- 避けるべき時間帯: 始業直後(午前9時~10時頃)、昼休憩の時間帯(通常12時~13時頃)、終業間際(17時以降や定時直前)。
- 推奨される時間帯: 午前10時~12時、午後13時30分~16時頃。この時間帯であれば、会議や来客が比較的少なく、担当者も落ち着いて対応できる可能性が高いです。
辞退理由の整理(簡潔かつ正直に)
辞退理由を詳しく説明する義務はありませんが、簡潔に伝えることで誠意が伝わります。正直に、ただし企業を批判するような内容は避けましょう。よくある理由としては、以下のようなものが挙げられます。
「自身のキャリアプランをより深く考えた結果、別の企業様からいただいた内定の方が、私の長期的な目標により合致すると判断いたしました。」
「複数社から内定をいただき、それぞれの企業様の社風や業務内容を慎重に比較検討した結果、今回はご縁を感じた別の企業様にお世話になることを決意いたしました。」
「自身の適性について改めて深く考えた結果、貴社で求められる人物像と私の強みに少しずれがあると感じ、入社しても期待に応えられないのではないかと懸念いたしました。」
「大変恐縮ながら、家庭の事情により、勤務地について再考する必要が生じました。」
これらの例のように、自分の内省や別の機会、個人的な状況に焦点を当て、企業そのものや選考プロセスを否定する表現は絶対に避けましょう。具体的にどの企業かなどを言う必要もありません。「より合致する」「ご縁を感じた」といった、抽象的で丁寧な表現で十分です。
内定辞退電話の具体的なかけ方:ステップと会話例
ここからは、実際の電話の流れと会話例を見ていきましょう。落ち着いて、準備した内容に沿って話すことが大切です。
ステップ1:挨拶と担当者の確認
電話がつながったら、まずは大学名(または現職の会社名)と氏名を名乗り、担当者に取り次いでもらいましょう。
「お忙しいところ恐れ入ります。〇〇大学の[あなたの名前]と申します。採用ご担当の△△様(または採用ご担当部署の方)はいらっしゃいますでしょうか?」
もし担当者が不在の場合は、戻る時間を尋ねて改めてかけ直すか、担当部署の別の方に要件を伝えるかを判断します。急ぎの場合は、代わりの方に伝えることも可能ですが、基本的には担当者本人に伝えるのが望ましいです。「改めてお電話差し上げます」と伝え、都合の良い時間帯を聞いてから電話を切るのが丁寧です。
ステップ2:内定辞退の意思表示
担当者につながったら、改めて名乗り、内定辞退の意思を明確に伝えます。最初に結論を述べることが、相手に要件を正確に伝える上で重要です。
「〇〇大学の[あなたの名前]です。先日は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。実は、内定の件でご連絡させていただきました。大変申し上げにくいのですが、今回は内定を辞退させていただきたく、お電話いたしました。」
「申し訳ございませんが」「申し上げにくいのですが」といったクッション言葉を挟むことで、丁寧な印象になります。
ステップ3:辞退理由の簡潔な説明(任意)
聞かれた場合や、誠意を示すために自分から伝える場合は、準備しておいた簡潔な理由を伝えます。詳しくは聞かれないこともありますし、深掘りされたくない場合は、あえて簡潔に終わらせることも可能です。
(聞かれた場合や、自分から伝える場合)
「理由としましては、自身のキャリアプランを熟考した結果、別の企業様にご縁を感じ、そちらに入社することを決めました。」(さらに詳しく聞かれた場合)
「詳細については差し控えさせていただきますが、自分の適性や将来の目標を総合的に判断しての決断となります。ご理解いただけますと幸いです。」
ステップ4:感謝の気持ちを伝える
選考に時間を割いてもらったこと、内定を出してもらったことへの感謝の気持ちを丁寧に伝えます。これは非常に重要なステップです。
「短い間ではございましたが、選考の機会をいただき、また、内定という素晴らしい評価をいただけましたこと、心より感謝申し上げます。大変お世話になりました。」
「△△様(担当者名)には、面接やメールでのやり取りを通じて、大変丁寧にご対応いただき、本当に感謝しております。」
ステップ5:会話の締めくくり
担当者の応答を聞き、改めてお礼を伝えて、丁寧な言葉遣いで電話を終えます。「恐れ入ります」「失礼いたします」といった言葉を忘れずに。
(担当者からの応答の後)
「はい、ご理解いただきありがとうございます。改めて、貴重なお時間を割いて選考していただきましたこと、重ねて御礼申し上げます。それでは、失礼いたします。」
電話中に聞かれる可能性のあることと対応
内定辞退の電話では、担当者からいくつかの質問や慰留があるかもしれません。事前に想定しておくと、慌てず対応できます。
辞退理由を詳しく聞かれた場合
「具体的にどのような点に魅力を感じなかったのですか?」「別の企業とはどこですか?」などと聞かれる場合があります。正直に答える必要はありませんし、答える義務もありません。事前に準備した簡潔な理由を繰り返し伝えるか、「詳細については申し訳ございませんが、お話しできかねます。私自身の適性やキャリアを総合的に判断しての決断です。」などと丁寧にお断りしましょう。企業を比較して優劣をつけたり、批判したりするような内容は絶対に避けてください。
慰留された場合
「もう一度考えていただけませんか?」「あなたの強みは弊社でこそ活かせますよ」「条件面で考慮できる点があるかもしれません」などと、引き止められる(慰留される)可能性もゼロではありません。これは企業があなたを高く評価している証拠でもあります。感謝の気持ちを伝えつつも、すでに十分検討した上での決定であることを毅然とした態度で伝えましょう。
「大変光栄なお言葉、ありがとうございます。貴社に高く評価いただけたこと、心から嬉しく思っております。ですが、今回の決定は、私自身が時間をかけて熟慮した結果であり、揺るぎない決断です。せっかくお声をかけていただいたのに、大変申し訳ございません。」
曖昧な態度を取ると、企業側に期待を持たせてしまい、かえって迷惑をかけることになります。決定事項として、丁寧に伝えましょう。
今後の関係について
「今後、何か別の機会でご一緒できれば」といった言葉をかけられることもあります。感謝の気持ちを伝え、「私も、貴社の今後のご発展を心よりお祈りしております」といった、相手を尊重する言葉で応じましょう。ただし、社交辞令にとどめ、安易に具体的な約束はしない方が賢明です。
内定辞退電話で避けるべき言動・注意点
最後に、内定辞退の電話をする上で、これだけは避けるべきというポイントをまとめます。
- 嘘をつく: 辞退理由などで嘘をつくと、後々トラブルになったり、信用を失ったりする可能性があります。簡潔でも正直に伝えましょう。
- 曖昧な表現を使う: 「~かなと考えています」「~かもしれません」といった曖昧な言い方では、辞退の意思が明確に伝わりません。「辞退させていただきます」と明確に伝えましょう。
- 企業の批判をする: 選考プロセスや社員、企業の事業内容などを批判するようなことは絶対にやめましょう。立つ鳥跡を濁さず、丁寧な対応を心がけます。
- 横柄な態度をとる: 他の企業から内定をもらったからといって、偉そうな態度を取るのは論外です。最後まで謙虚かつ丁寧な言葉遣いを保ちましょう。
- 一方的に話す: 自分の言いたいことだけを早口で話し、相手の反応を待たないのは失礼です。担当者の声に耳を傾け、会話のキャッチボールを意識します。
- 時間をかけすぎる: ダラダラと長く話す必要はありません。要点を伝え、感謝を述べたら、長話は避けましょう。
- 夜間や休日にかける: 原則として、企業の営業時間内に電話をかけます。特に、終業時間間際や休憩時間、休日は避けてください。
電話以外の辞退方法について
内定辞退は電話で行うのが最も丁寧であると前述しましたが、状況によっては他の方法も検討されるかもしれません。
メールでの辞退について
企業によっては、内定通知時に「辞退の場合はメールでご連絡ください」と明確に指示しているケースがあります。この場合は指示に従ってメールで連絡します。また、電話をかけたけれど全く繋がらない、担当者が長期不在であるといったやむを得ない事情がある場合も、まずはメールで連絡を入れることが考えられます。ただし、その場合でも、メールで連絡した旨を伝え、改めて電話連絡を試みる、またはメールへの返信を依頼するといったフォローをすることが望ましいです。
メールで連絡する場合でも、件名を分かりやすくし(例:「内定辞退のご連絡(氏名)」)、内定へのお礼、辞退の意思表示、簡潔な理由、お詫びの言葉を記載するなど、失礼のない丁寧な文章を心がける必要があります。
しかし、あくまで特別な場合を除き、電話での直接連絡が基本であり、最も誠意が伝わる方法であることを理解しておきましょう。
まとめ
内定辞退の電話は、多くの場合、一度きりの連絡となります。ですが、お世話になった企業に対して、感謝の気持ちと誠意を伝える大切な機会でもあります。内定承諾期限に余裕をもって、事前の準備をしっかりと行い、礼儀正しく、かつ明確な意思表示をすることが、双方にとって気持ちの良い締めくくりとなります。
ここで解説した内容を参考に、自信をもって内定辞退の電話に臨んでください。あなたの新しい一歩が、素晴らしいものとなるよう願っています。