保険料控除とは? – 税負担を軽減する仕組み
保険料控除とは、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料などを支払った場合に、その支払った保険料に応じて一定の金額を所得から差し引くことができる制度です。これにより、所得税や住民税の負担を軽減することができます。これは、国の政策として、国民が自助努力で将来への備え(死亡保障、病気・ケガ、老後の資金など)を行うことを奨励するための優遇措置と言えます。
控除を受けるためには、年末調整や確定申告の手続きを行う必要があります。手続きを忘れると税負担が重くなってしまうため、対象となる保険に加入している場合は忘れずに申告しましょう。
なぜ保険料控除を利用するべきなの?
最大の理由は、税金が安くなるからです。所得税や住民税は、所得から各種控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除、そしてこの保険料控除など)を差し引いた「課税所得」に対して課税されます。保険料控除を適用することで課税所得が減り、結果として納める税金の額が少なくなります。支払った保険料の一部が、間接的に税金として還付されたり、翌年の税金から差し引かれたりするイメージです。
控除の対象となる保険料の種類
保険料控除の対象となるのは、主に以下の4つの種類に分けられます。ただし、2012年1月1日以後に契約した「新制度」と、2011年12月31日以前に契約した「旧制度」で、控除の区分が少し異なります。
- 一般生命保険料控除
- 対象となる保険: 死亡保険、学資保険(養老保険などを含む)、リビングニーズ特約など、被保険者の生存または死亡に基因して保険金・給付金が支払われるもの。
- 新制度: 一般生命保険料控除として計算されます。
- 旧制度: 一般生命保険料控除として計算されます。
- 介護医療保険料控除(新制度のみ)
- 対象となる保険: 医療保険、がん保険、介護保険(特約を含む)、入院給付金、手術給付金などが支払われるもの。
- 新制度: 介護医療保険料控除として計算されます。
- 旧制度: この区分はありません。旧制度の医療保険などは、一般生命保険料控除の対象となる場合があります。
- 個人年金保険料控除
- 対象となる保険: 個人年金保険のうち、以下の4つの要件をすべて満たすもの。
- 年金受取人が契約者またはその配偶者であること。
- 保険料払込期間が10年以上であること。
- 年金受取開始年齢が原則として満60歳以降であること。
- 確定年金や有期年金の場合、年金支払期間が10年以上であること。
- 新制度: 個人年金保険料控除として計算されます。
- 旧制度: 個人年金保険料控除として計算されます。
- 対象となる保険: 個人年金保険のうち、以下の4つの要件をすべて満たすもの。
【重要】契約時期によって「新制度」「旧制度」のどちらが適用されるかが決まります。新制度では「介護医療保険料控除」が新設され、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除とは別枠で控除額を計算できます。旧制度の場合は、一般生命保険料控除と個人年金保険料控除の2区分のみとなります。
保険料控除額はいくら? – 計算方法と上限額
実際に所得から控除できる金額は、支払った保険料の金額に応じて、また新制度か旧制度か、さらに所得税か住民税かによって計算方法と上限額が異なります。
所得税の控除額計算
新制度の場合(一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料)
各保険料控除の種類の別に、それぞれ以下の計算式で控除額を計算します。
- 年間支払保険料等が20,000円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が20,000円超 40,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 10,000円
- 年間支払保険料等が40,000円超 80,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 20,000円
- 年間支払保険料等が80,000円超の場合:一律40,000円
各種類の控除額の上限は40,000円です。3つの種類の控除額を合計した「合計適用限度額」は、所得税では最大120,000円となります。
旧制度の場合(一般生命保険料、個人年金保険料)
各保険料控除の種類の別に、それぞれ以下の計算式で控除額を計算します。
- 年間支払保険料等が25,000円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が25,000円超 50,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 12,500円
- 年間支払保険料等が50,000円超 100,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 25,000円
- 年間支払保険料等が100,000円超の場合:一律50,000円
各種類の控除額の上限は50,000円です。2つの種類の控除額を合計した「合計適用限度額」は、所得税では最大100,000円となります。
新制度と旧制度の契約がある場合
同じ種類の保険料(例:一般生命保険料)で、新制度と旧制度の両方の契約がある場合は、以下のいずれかを選択して計算します。
- 新制度の計算式で算出した控除額 (上限40,000円)
- 旧制度の計算式で算出した控除額 (上限50,000円)
- 新制度と旧制度のそれぞれの計算式で算出した控除額を合計した金額 (上限40,000円)
この中で最も控除額が大きくなる方法を選択できます。ただし、新制度と旧制度の合計で計算する場合の控除額の上限は、新制度の控除額の上限と同じ40,000円となることに注意が必要です。
住民税の控除額計算
住民税の保険料控除額は、所得税とは計算式と上限額が異なります。
新制度の場合(一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料)
各保険料控除の種類の別に、それぞれ以下の計算式で控除額を計算します。
- 年間支払保険料等が12,000円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が12,000円超 32,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 6,000円
- 年間支払保険料等が32,000円超 56,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 14,000円
- 年間支払保険料等が56,000円超の場合:一律28,000円
各種類の控除額の上限は28,000円です。3つの種類の控除額を合計した「合計適用限度額」は、住民税では最大70,000円となります。
旧制度の場合(一般生命保険料、個人年金保険料)
各保険料控除の種類の別に、それぞれ以下の計算式で控除額を計算します。
- 年間支払保険料等が15,000円以下の場合:支払保険料等の全額
- 年間支払保険料等が15,000円超 40,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/2 + 7,500円
- 年間支払保険料等が40,000円超 70,000円以下の場合:支払保険料等 × 1/4 + 17,500円
- 年間支払保険料等が70,000円超の場合:一律35,000円
各種類の控除額の上限は35,000円です。2つの種類の控除額を合計した「合計適用限度額」は、住民税では最大70,000円となります。
新制度と旧制度の契約がある場合
同じ種類の保険料で新制度と旧制度の両方の契約がある場合は、以下のいずれかを選択して計算します。
- 新制度の計算式で算出した控除額 (上限28,000円)
- 旧制度の計算式で算出した控除額 (上限35,000円)
- 新制度の計算式で算出した控除額と旧制度の計算式で算出した控除額を合計した金額 (上限28,000円)
この中で最も控除額が大きくなる方法を選択できます。ただし、新制度と旧制度の合計で計算する場合の控除額の上限は、新制度の控除額の上限と同じ28,000円となります。
【計算例】
例えば、新制度の契約のみで、以下の保険料を年間支払っているケースを考えます。
- 一般生命保険料: 70,000円
- 介護医療保険料: 40,000円
- 個人年金保険料: 60,000円
所得税の場合:
- 一般生命保険料: 70,000円 → 70,000円 × 1/4 + 20,000円 = 17,500円 + 20,000円 = 37,500円 (上限40,000円内)
- 介護医療保険料: 40,000円 → 40,000円 × 1/2 + 10,000円 = 20,000円 + 10,000円 = 30,000円 (上限40,000円内)
- 個人年金保険料: 60,000円 → 60,000円 × 1/4 + 20,000円 = 15,000円 + 20,000円 = 35,000円 (上限40,000円内)
合計控除額 = 37,500円 + 30,000円 + 35,000円 = 102,500円。
所得税の合計適用限度額は120,000円なので、所得税では102,500円が控除されます。
住民税の場合:
- 一般生命保険料: 70,000円 → 70,000円超なので一律28,000円 (上限28,000円内)
- 介護医療保険料: 40,000円 → 40,000円 × 1/4 + 14,000円 = 10,000円 + 14,000円 = 24,000円 (上限28,000円内)
- 個人年金保険料: 60,000円 → 60,000円超なので一律28,000円 (上限28,000円内)
合計控除額 = 28,000円 + 24,000円 + 28,000円 = 80,000円。
住民税の合計適用限度額は70,000円なので、住民税では70,000円が控除されます。
この計算例のように、支払った保険料が同じでも、所得税と住民税で控除される金額は異なります。
保険料控除の申告方法 – 年末調整と確定申告
保険料控除を受けるためには、適切な時期に適切な方法で申告手続きを行う必要があります。主な申告方法は「年末調整」と「確定申告」の2つです。
年末調整で申告する(会社員・公務員など)
会社などに勤めている給与所得者は、通常、勤務先で行う年末調整で保険料控除を申告します。
- 保険料控除証明書の受け取り: 加入している保険会社から、毎年10月頃にその年の1月1日から9月30日までに支払った保険料に関する「保険料控除証明書」が郵送されてきます。10月以降に支払った分も合算された最終的な証明書が11月頃に届くことが一般的です。
- 証明書の内容確認: 証明書に記載されている氏名、保険会社名、保険種類、契約日、年間支払い見込額(または確定額)などが正しいか確認します。新制度か旧制度かの記載も確認しましょう。
- 「給与所得者の保険料控除申告書」への記入: 勤務先から配布される「給与所得者の保険料控除申告書」に、証明書の内容(保険会社名、保険種類、支払った保険料の金額など)を転記します。新制度と旧制度、それぞれの区分に分けて記入欄があります。
- 証明書の提出: 記入した申告書に保険料控除証明書を添付して、勤務先に提出します。提出期限は通常11月頃ですが、勤務先の指示に従ってください。
勤務先が提出された申告書と証明書に基づいて控除額を計算し、年末の給与で所得税の過不足分を調整してくれます。住民税については、年末調整の結果が翌年の住民税計算に反映されます。
確定申告で申告する(自営業者など、または年末調整を忘れた場合)
自営業者やフリーランス、年収が2,000万円を超える給与所得者、または年末調整で保険料控除の申告を忘れてしまった給与所得者などは、ご自身で確定申告を行う必要があります。
- 保険料控除証明書の準備: 年末調整と同様に、保険会社から送られてくる保険料控除証明書を準備します。
- 確定申告書の作成: 国税庁のホームページから確定申告書をダウンロードするか、税務署で入手します。「所得から差し引かれる金額」の欄にある「生命保険料控除」の項目に、保険料控除証明書を見ながら必要事項と控除額を記入します。控除額はご自身で計算する必要がありますが、確定申告ソフトや国税庁のe-Taxソフトを利用すると自動計算してくれる場合があります。
- 必要書類の添付・提出: 作成した確定申告書に保険料控除証明書を添付して、管轄の税務署に提出します。提出方法は、e-Tax(電子申告)、郵送、税務署窓口への持参があります。
- 提出期間: 確定申告の提出期間は、通常、毎年2月16日から3月15日までです。還付申告(税金が戻ってくる申告)の場合は、翌年1月1日から5年間提出可能です。
確定申告により、所得税の過不足分が精算されます。住民税については、確定申告の内容が市区町村に通知され、翌年の住民税計算に反映されます。
保険料控除に関するその他の注意点
- 保険料控除証明書をなくしてしまったら?: 保険会社に再発行を依頼できます。年末調整や確定申告に間に合うよう、早めに連絡しましょう。
- 「リビングニーズ特約」の保険料は?: 多くの場合、一般生命保険料控除の対象となります。証明書で確認しましょう。
- 家族の保険料は?: 納税者自身が保険料を支払っている契約であれば、被保険者が配偶者や子供であっても、保険料控除の対象にすることができます。ただし、契約者と保険料の負担者が異なる場合は注意が必要です。実際に保険料を支払っている人が控除を受けることができます。
- 外貨建て保険や変額保険は?: 対象となるものとならないものがあります。保険の種類や契約内容によりますので、保険会社からの証明書で「保険料控除の対象」となっているか確認が必要です。
保険料控除は、私たちが支払っている保険料の一部を税金という形で取り戻せる、非常に有用な制度です。適切に申告手続きを行って、税負担を賢く軽減しましょう。不明な点があれば、保険会社や税務署、税理士に相談することをお勧めします。